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元国税庁国際担当官 多田恭章の海外取引に関する税金知識:非居住者に退職金を支払う場合の留意点~「退職所得の選択課税」とは

社員が海外出向等によって海外に赴任し、海外勤務中に退職金が支払われる場合があります。この場合の退職金の源泉徴収はどうなるのでしょうか。「退職所得の選択課税」という制度があるので、検討する必要があります。

非居住者に支払う退職金

非居住者である海外勤務中の社員に退職金を支払う場合には、退職金のうち、国内勤務期間に対応する金額を国内源泉所得として、退職金を支払う際に20.42の税率で源泉徴収しなければなりません。
国内源泉所得の金額は、以下の算式で計算されます(所得税基本通達161-41)。

よって、例えば、通算の勤務期間が40年で、そのうち日本での勤務期間が25年であれば、退職金の総額に25/40を乗じた金額が国内源泉所得となります。

一方、海外勤務の社員が日本に帰国し、居住者となった後に退職して退職金を支払う場合には、その支給総額から勤務期間に応じた退職所得控除額を差し引いた後の金額の2分の1の金額について、累進税率を適用して源泉徴収をすることになります。したがって、収入金額が退職所得控除額以下の場合には、退職所得の課税は生じません。

「退職所得の選択課税」とは

このように、退職金を受け取る者が居住者か非居住者かによって、日本での所得税の負担額が異なります。

一般的には、非居住者に退職金を支払う場合、国内勤務期間が長いほど、居住者の場合と比べて、所得税の負担額は多額となると言えます。

そこで、非居住者と居住者の間で、このような不合理が生じないようにするため、非居住者が受け取る退職金については、居住者と同様の税額計算を行うことが認められています。これを「退職所得の選択課税」と呼んでいます。

この制度の適用を受けるためには、退職金の支払いを受けた翌年1月1日(又は退職金の総額が確定した日)以後に、税務署に所得税の確定申告書(還付申告書)を提出することにより、既に源泉徴収された税額と選択課税を適用した税額との差額の還付を受けることができます。

この制度を利用するかどうかは、あくまで納税者の選択です。通常は、この制度の適用を受けた場合に算定される税額が、非居住者として源泉徴収された税額よりも少ないときに、その差額の還付を受けるために利用されます。

なお、退職所得の発生日は、退職金の支払日ではなく、「退職日」となっています。よって、退職日に非居住者であるときは、退職金の支給を日本の居住者になった後に行ったとしても、非居住者の退職金として課税することとなります。

「退職所得の選択課税」を利用する場合の留意点

「退職所得の選択課税」を利用する場合、以下の点に留意が必要です。
イ) 扶養控除、配偶者控除、基礎控除等の所得控除の適用はありません。
ロ) 「退職所得の選択課税」の対象となるのは、国内勤務期間に対応する退職金だけではなく、国外勤務期間に対応する退職金も含めた退職金の総額となります。
ハ) 海外勤務中の社員が、日本において確定申告をする時は、一般的には、納税管理人を選任して、その納税管理人を通じて申告を行うこととなります。

現地国での課税の確認も必要

海外赴任中に退職金を受け取った場合、赴任先での課税についても確認が必要です。通常、赴任先の国に1年以上滞在する場合は、その国の居住者となるのが一般的です。居住者に対しては全世界所得に課税するというということであれば、日本で受け取った退職金も現地国で申告・納税する必要があります。
もっとも、日本でもらった退職金まで現地国では分らないだろうと考えて、申告していないケースもあるようですが、将来的に退職金の申告漏れが発覚して課税されるリスクがないとは言えないでしょう。
こうした現地国の課税上の問題もあることから、実務上は「退職前には日本に帰任し、居住者となってもらう」という対応をとっているケースが多いと思われます。

著者: 多田恭章

租税調査研究会 主任研究員

元国税庁国際業務課主査。
中小企業に対する税務調査や国際税務に関する経験等をフルに活かし、企業の方々の抱える疑問や不安を少しでも解消できるよう、適切なアドバイスをしていきたい。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
https://zeimusoudan.biz/

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