近年では、税務署所管の中堅・中小法人でもアジア地域などに海外子会社等の拠点を設けて海外進出するケースが増えています。そのため、海外子会社等を有する法人が税務調査のターゲットとなりやすく、調査で問題点が把握された件数や申告漏れ金額も大きく増加しています。
経済のグローバル化に伴い、税務署所管の中堅・中小法人でも海外子会社等を設けて海外進出するケースが増加しています。こうした流れを受け、近年では海外子会社等を有する法人が税務調査のターゲットとなる傾向があります。
海外への所得移転等の租税回避に対処するための制度としては、移転価格税制、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)、過少資本税制、過大支払利子税制、国外関連者に対する寄附金などがあり、これらが適用される事案も年々増えています。
国際課税の非違の状況
平成27年度から29年度において、東京国税局管内の税務署で把握された国際課税の非違(移転価格税制、タックスヘイブン対策税制、過少資本税制、過大支払利子税制、国外関連者に対する寄附金が適用された事案)の状況は以下の通りとなっています。非違が把握された件数、申告漏れ金額ともに大きく増加しています。
国際課税の非違の状況(各年6月末現在)
国外関連者に対する所得移転に対処する税制としては、「移転価格税制」や「国外関連者に対する寄附金」がありますが、税務署では「国外関連者に対する寄附金」という形で課税されるケースが多く見られます。
「タックスヘイブン対策税制」については、適用される件数自体はさほど多くありませんが、1件当たりの申告漏れ金額は多額となる傾向があります。
「過大支払利子税制」は、平成24年の税制改正で創設された制度ですが、非違件数も年々増えていることから、適用要件等を再確認しておく必要があると思われます。
各制度の留意点
移転価格税制
移転価格税制とは、法人と国外関連者との取引によって所得が日本から海外に流出している場合に、国外関連者との取引が適正な取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算する制度です。
税務署においては、本格的な移転価格調査が行われることは少なく、海外子会社への技術支援等を行った場合に適正な対価を回収しているか、海外子会社へ資金貸付をした場合に適正な貸付金利を収受しているかなど、比較的短期間で終了する調査(簡易な移転価格調査)が中心となります。また、最終的に「 国外関連者に対する寄附金」として課税されるケースも多く見られます。
タックスヘイブン対策税制
タックスヘイブン対策税制とは、法人税率の低いタックスヘイブン(租税回避地)に設けた海外子会社等の所得を日本の親会社等の所得に合算して課税する制度です。タックスヘイブン対策税制には適用除外となる基準がありますが、税務調査では、この基準を満たすかどうかが争点となるケースが多く見られます。
香港やシンガポール等の低税率国に子会社を設けている場合には、タックスヘイブン対策税制の適用の有無に注意を払う必要があります。
過少資本税制
過少資本税制とは、外国親会社からの借入金が親会社からの出資金に比較して多額の場合に、その借入金に対して支払う利子の一部を損金不算入とする制度です。一般に、資本金と借入金等の比率が1:3までであれば、その借入金に対する支払利子は損金に算入されますが、比率が1:3を超える場合には、超える部分の利子について損金不算入となります。
外資系法人で外国親会社から多額の借入がある場合には、過少資本税制が適用されないかの確認が必要です。
過大支払利子税制
過大支払利子税制とは、所得金額に比べて過大な利子を関連者に支払うことによる租税回避を防止するため、関連者への純支払利子等の額のうち調整所得金額の一定割合(50%)を超える部分の金額を損金不算入とする制度です。過少資本税制が資本金と借入金等のバランスの観点から支払利子の損金算入を制限するのに対し、この制度は所得金額と支払利子とのバランスによって支払利子の損金算入を制限するものです。
関連者に対して利子を支払っている場合は、過大支払利子税制が適用されないか、チェックが必要です。
国外関連者に対する寄附金
国外関連者に対する寄附金は、全額が損金不算入となります。
例えば、海外子会社に出向した社員の給与を全額日本の親会社が負担した場合、海外子会社が販売する製品の広告宣伝費を全額日本の親会社が負担した場合、海外子会社に対して無利息貸付けを行った場合、相当な理由なく海外子会社に対する債権を放棄した場合などは、寄附金課税のリスクがあります。
また、業績不振の海外子会社を支援するため、業務委託費等の名目で資金援助していた事例などもあり、寄附金課税の対象となります。こうしたケースでは事実の仮装行為を伴うため、重加算税が課される可能性も高いといえます。