急増する金地金の密輸を阻止するため、平成31年税制改正において、消費税における仕入税額控除の見直しが行われました。今後は、金地金を仕入れるに際して「本人確認書類」の写しの保存が仕入税額控除の要件となり、また、密輸品と知りながら行った課税仕入れについては、仕入税額控除は認められないこととなります。

金地金密輸のスキーム

金地金の密輸事件が近年急増しており、その背景には消費税の仕組みがあるといわれています。金地金の取引は消費税の課税取引に該当するため、金地金の売買は消費税込みで行われ、保有している金地金を売却した場合には消費税込みの価格で買い取られます。
以下の図は、財務省が公表した金地金密輸のスキーム図です。

(出典:財務省資料)

金地金の密輸は、消費税を納付せずに国内に持ち込んだ金地金を国内の金買取業者に売却することによって、消費税額相当分を利益として獲得することを目的に行われています。
例えば、本体価格500万円/kgの金地金5kg(2,500 万円)を輸入する場合、本来であれば輸入時に税関で200万円(2,500万円×8%)の消費税を納付しなければなりません。しかし、密輸者は、その消費税を納付することなく、金地金を国内に持ち込みます。そうして密輸した金地金を市中の金買取業者に消費税(200万円)込みの価格で売却することによって、密輸者はこの消費税相当分を利益として得ることができるという仕組みです。

(出典:財務省資料)

上図は金密輸の摘発件数の推移を表したものです。
金地金の密輸は消費税が5%から8%に引き上げられた平成26年から急増しています。平成29年の摘発は1,347件、押収量は約6.2トンに上り、消費税増税前の平成25年と比べて、摘発件数は約110倍、押収量は約50倍を記録しました。
こうした金地金の密輸を抑制するため、平成30年税制改正において金地金密輸の罰則が強化されました。しかし、今年10月には消費税率10%への引き上げで密輸が拡大する恐れがあることから、平成31年税制改正においては、消費税の仕入税額控除の観点から更なる密輸防止策が盛り込まれました。

「本人確認書類」の写しの保存が仕入税額控除の要件に

平成31年税制改正では、金地金の買取業者に対して、売手が個人の場合はパスポートや運転免許証、法人の場合は登記事項証明書等の「本人確認書類」の写しの保存を消費税の仕入税額控除の要件としました。
買取業者がこれらの書類を保存しなければ、金地金の仕入れにかかった消費税を控除することが出来なくなり、税負担が増加することとなります。
この改正は、平成31年10月1日以降に国内において事業者が行う課税仕入れについて適用されます。

密輸品と知っていた場合も仕入税額控除を認めず

これまでは、金地金の仕入れについては、密輸品であったとしても、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除が可能となっていました。
そこで、平成31年税制改正において、密輸品と知りながら行った課税仕入れについては、仕入税額控除を認めないこととされました。
この改正は、平成31年4月1日以降に国内において事業者が行う課税仕入れについて適用されます。