少子高齢化に伴い緊迫する財政難に対処すべく、近年、公助から共助(ともに助け合う)、共助から自助に向けた施策が注目を浴びることが多くなったように見受けられます。こうした流れは所得税法においても確認できるところですが、今回は岡山県総社市の取組みにスポットを当ててみましょう。
「健康SOJA」のまち総社市
「『日本再興戦略』の改訂~改革に向けての10の挑戦~」(2013)では、岡山県総社市における国民健康保険における取組み(通称「総社市国保 健康で1万円キャッシュバック」)が紹介されています。
具体的には、次の①から③までの要件を満たす世帯に対し、1万円を支給するという施策です(特定健康診査の対象者がいない世帯は、①と③のみが要件)。
① 過去1年間、被保険者が保険診療を受けなかった世帯
この制度の目的は、生活習慣病の重症化を防ぐことと共に、医療費の高額化を防ぐことにあり、また、1年以上病院にかかっていない人への「特定健康診査」の受診の動機付けにもなると指摘されています。
病院や特定健診で「健康状態を全くチェックしていない人」を減らし、病気の早期発見、早期治療へつなげる狙いというわけです。もっとも、短期的には医療費が増えるおそれもありますが、現状以上に健康状態を悪化させず、健康寿命を延伸させようとする取組みと評価できるでしょう。
総社市では、市民一人ひとりが、心身ともに健やかで豊かな人生が送れるよう、自ら考え、行動し、共に支え合う「健康SOJA」のまちを目指しているといいます(総社市ホームページより)。
この「健康SOJA」にいう「SOJA」とは次の4つを表しています。
ここにいう、S(セルフ)とA(アクション)は、自らが自分の健康を意識して主体的に行動することを意味しているわけですが、上記の施策ではこの点が強調されているように思われます。
セルフメディケーション税制にみる自助の方向性
これは近年、所得税法上の医療費控除の特例として導入されている「セルフメディケーション税制」に親和性を有する施策であるといえましょう。
セルフメディケーション税制は、健康の維持増進及び疾病の予防への取組みとして一定の健康の維持増進及び疾病の予防に関する取組みを行う個人が、平成29(2017)年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるものです。
いわば、自らの健康管理を意識して主体的に疾病予防等を行う個人に対する税制上の優遇措置がセルフメディケーション税制といえるところ、上記の総社市の取組みも同じ視点に立つものと思われます。これは俯瞰してみれば、公助(公の助け)によらずに自助(自らの取組み)によることを推奨する方向感と整理することができるでしょう(酒井克彦「所得税法上の所得控除にみる予防法学的変容―セルフメディケーションに関する医療費控除を中心として―」中央ロー・ジャーナル13巻1号21頁(2016)参照)。
少子高齢化社会においては一方的に肥大化する公的助成に要する財政問題が発生します。そこで、公助から共助(ともに助け合う)、共助から自助に向けた施策が取り入れられつつあるところ、総社市の取組みは他の地方自治体の参考となるみならず、所得税法においても示唆を与えるものとなりましょう。