「租税回避か否か」で争われていた、日本IBMの持ち株会社と国税当局との争いに関する記事をこのほど紹介した。結果的に、国税当局側が敗訴ということになったが、今回の裁判、何がIBM勝訴の理由だったのか迫ってみた。

注目の「IBM事件」は、国際的租税回避スキームが逃げ切るかたちで幕を閉じた。
連結納税と自社株取引の組み合わせによる法人税の減少が「租税回避行為」にあたるか否かが争われていた裁判で、最高裁第1小法廷(山浦善樹裁判長)はこのほど、国側の上告を退け、IBM側の主張を全面的に認めた一審、二審判決が確定。これによりIBM側は、納税済みの追徴税額1200億円を取り戻すだけでなく、数百億円にのぼる還付加算金を手にすることになる。この国家予算規模の還付加算金の出所は国庫、つまりわれわれが納めた税金だ。

国際的租税回避vs 国税当局

IBM事件で注目されたのは、「国際的租税回避スキームVS国税当局」の構図だ。経済取引のグローバル化にともない次々に編み出される租税回避スキームと、それを追いかける国税当局のイタチごっこは常に関心の的。そんな中でIBMグループが採用したのは、自己株買いによる「益金不算入制度」と「連結納税制度」を組み合わせた巧妙なスキームだった。

日本IBMの持ち株会社「アイ・ビー・エム・エイ・ピー・ホールディングス」(AP社)は、親会社である米国IBMから日本IBMの全株式を購入。その一部を発行会社である日本IBMに譲渡し、約4千億円という巨額の株式譲渡損失を発生させた。税務上、自己株を取得するために金銭を支払った場合「1株当たりの資本金額×譲渡株数」を超える部分の金額はみなし配当となり、益金不算入扱いとなる(当時)。AP社はこの譲渡損により生じた赤字を、「連結納税制度」を利用して日本IBMの黒字と相殺し、グループ全体の法人税負担を大幅に減少させた。

「伝家の宝刀(行為計算の否認)」が抜かれた

一連の行為に対し、東京国税局は「租税回避」であるとして約1200億円の追徴課税処分を行ったが、その際に課税の根拠としたのが「同族会社の行為計算の否認規定」(法人税法132条)だ。

これは「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められることがあるときは、その行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準もしくは欠損金または法人税の額を計算することができる」というもの。

一つひとつは法に則った行為であっても、全体で見たときに租税回避目的であると認められる場合は、税務署長の権限で否認できるという強力な規定である。具体的な適用基準は示されておらず、節税を考える会社にとっては不気味な存在。その影響の大きさからか、税務署もめったに抜かない「伝家の宝刀」とも言われている。

最強のカードを使われたIBM側は、課税処分の取り消しを求めて提訴に踏み切った。裁判の争点となったのは、株式譲渡で生じた赤字による法人税負担の減少が、法132条でいうところの「法人税の負担を不当に減少」させたものに当たるか否か。ここでいう「不当」の解釈については「経済取引として不合理・不自然である場合」(最高裁昭和50年(行ツ)第15号)という判断基準が示されている。裁判では、一連の取引における「経済的合理性」の有無が焦点となった。