女性記者のひとりごと vol.62 取調室
取調室といえばかつ丼を連想する人は少なくないはず。泣く子も黙るマルサの取り調べでもやっぱりかつ丼を食べるの?

大昔に査察の幹部だった方とお会いする機会があった。
二人で豚カツ定食を食べながら、ついミーハーな質問をしてしまう私。
「やっぱりマルサの取り調べでもカツ丼出すんですか?」
我ながらなんというしょーもない質問。
国税局の査察といえば、「マルサ」と呼ばれ恐れられているコワ〜イ部署だ。
とくに悪質な事案ばかりを担当するだけあって査察官は凄腕揃い。
裁判所の令状片手に大人数で本社や社長宅に乗り込む“ガサ入れ”は
刑事ドラマの1シーンようでカッコいい。
昔の刑事ドラマでは、警察に連行された容疑者が取調室でカツ丼を食べさせてもらうシーンがお約束だった。
ということでつい口から出てしまったのが先ほどの質問。
一笑に付されると思いきや、返ってきた答えは
「出すよ。カツ丼に限らず何でも出すよ」
…え、そうなの?
ガサ入れの日は、ダンボールに詰められた膨大な資料とともに、重要参考人である社長も国税局に〝お持ち帰り〟して事情聴取することがあるそうな。
国税局内には、四方を壁で囲まれた窓のないマルサ専用の取調室がある。
取り調べに時間がかかれば、食事をとることもある。
そしてメニューの選択は「基本的に参考人まかせ」(元査察官)だという。
なぜなら食事は出前であり、代金は参考人の自己負担だから。
このため参考人は、カツ丼でも鰻丼でも寿司でも、基本的に自分の食べたいものを注文できるという。
いわばメニューのないレストラン状態だ。
泣く子も黙るマルサの取調室で、重要参考人が特上寿司をパクパク食べている姿を想像するとちょっと笑える。

著者: 川瀬かおり
記者/税金ライター
社会部を根城とする税金オタクの女性記者。財務省・国税庁を中心に取材活動を展開すること20余年。事件モノを得意とし、裁判所にも日参する。税金ネタをこよなく愛する一方で、税制の隙間や矛盾を見つけては叩きまくるサディスティックな一面も。趣味は夜討ち朝駆けとクラブ通い。