カンボジアにあるタイ国境の街ポイペトはまるでレジャーランドであるといわれることがあります。なぜなら、いくつものカジノホテルが建ち並び、お金持ちのタイ人が国境を越えて遊びに来るからのようです。今回はそうしたカジノで利用するチップに注目してみます。
カンボジア政府とカジノ収入

そもそも、カンボジアでは、1996年に成立した賭博禁止法により賭博が禁止されており、カジノに入場できるのは外国人に限定されています(東京都平成29年3月付け「平成28年度 海外における特定複合観光施設に関する調査分析業務委託報告書」49頁以下(2017)。以下の記述も同報告書を参照しています。)。
現在、77のカジノにライセンスが与えられていて、そのうち65のカジノが営業を行っているようです。
首都プノンペン、リゾート地のシアヌークビルのほか、ベトナム国境のバベットやタイ国境のポイペトなどに施設が集中しており、これは、自国民のカジノ利用を認めていないベトナムや、カジノ非合法のタイといった隣国からの誘客を意図しているといいます。
プノンペンにあるナガワールドは国内最大のIR施設で、2016年1~9月までの政府のカジノ税収3,740万米ドル(43億円)のうち、ナガワールドからの税収が1,600万米ドル(18億円)、約43%を占めているとのことです。ナガワールドに限らず、カジノ税収はカンボジア政府にとって大きな歳入源であるのでしょう。
カジノで使用するプロモーションチップ
さて、上記で紹介したタイ国境のポイペトでは、「プロモーションチップ」というカジノチップを購入するとホテル宿泊が無料になる仕組みが採用されています。ホテル代を無料にするために、このプロモーションチップを購入し、一部はカジノで遊興した上で換金するといった旅行方法もネットでは多く紹介されているのです。
ところで、日本人旅行客が購入したプロモーションチップが盗難にあった場合、所得税法72条《雑損控除》の適用を受けることができるのでしょうか。
その検討の際の参考になるのが、いわゆるマカオ・カジノチップ事件です。
マカオ・カジノチップ事件
X(原告・被控訴人)は、マカオより香港に入るための通関手続を済ませ、修理屋で靴の修理を頼んでいる際、ボストンバッグの中に入れてあったカジノチップをバッグごと盗難されました。
本件カジノチップは、マカオの賭博場で賭博の用に供されるものですが、賭博場以外においても換金性を有し、一般的に現金代わりに通用します。
Xがかかる損失を雑損控除として申告したところ、税務署長Y(被告・控訴人)がこれを否認して更正処分を行ったことから、Xがこれを不服として提訴したのです。
そもそも、所得税法72条1項は、「生活に通常必要でない資産」に該当する資産が盗難にあったとしても、雑損控除の適用は受けることができない旨を規定していますから、ここでは、盗難されたカジノチップが「生活に通常必要でない資産」に該当するか否かが問題となりました。
第一審の判断―納税者勝訴―
京都地裁平成8年1月19日判決(行集47巻11=12号1125頁)は、次のとおり判示し、Xの主張を容認しました。
控訴審の判断―課税庁勝訴―
これに対して、控訴審大阪高裁平成8年11月8日判決(行集47巻11=12号1117頁)は、逆転、Yの主張を容認しています。
この判断を前提とすれば、ポイペトでのプロモーションチップも「生活に通常必要でない資産」に該当するとして、雑損控除の対象から除外されることになりそうです。
しかしながら、同チップは、マカオにおけるカジノチップに比較して、より生活に利用し得る度合いが高いようにも思われます。ホテル代として完全に代替可能であり、それを目的に購入している旅行者にとってみれば、なおさらその感を強くするのではないでしょうか。
もっとも、上記判決は、カジノチップの保有目的などは一切考慮されず、そもそも、そのカジノチップが射こう的行為の手段となり得るか否かのみで判断するという態度を示しており、いかにホテル代を無料にするために購入したとしても、所得税法上の「生活に通常必要でない資産」に該当するため、雑損控除の対象とはならないということになるのでしょう。
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