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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~新築か改築か・全部改正か廃止制定か~

言葉の使い方やイメージは人それぞれですから、同じ日本語であっても誰もが同じ意味合いで使用しているとは限りません。さて、皆さんは「改築」と聞くとどのようなイメージを持たれるでしょうか?「新築」や「増築」といった類似の言葉との使い分けをどのように説明されるでしょうか?今回は住宅ローン控除の事例を取り上げます。

住宅ローン控除における「改築」

租税特別措置法41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》にいう住宅借入金等特別控除(いわゆる住宅ローン控除)の適用が争点となった事例に、静岡地裁平成13年4月27日判決(税資250号順号8892)および控訴審東京高裁平成14年2月28日判決(訟月48巻12号3016頁)があります。

納税者X(原告・控訴人)は、S市に宅地を所有し、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建ての店舗兼居宅を所有し居住していましたが、道路拡張のため上記宅地のうちの一部が買収され、旧建物をそのまま使用できなくなってしまいました。

そこで、Xは、旧建物を取り壊し、その残地に鉄骨造アルミニウム板葺3階建て店舗兼居宅(以下「本件建物」といいます。)を建築し居住の用に供することとしたのですが、かかる建築に当たって住宅借入金等特別控除の適用が認められるかが争われました。

本件の場合、当時の住宅借入金等特別控除の規定によれば、本件建物が「改築」されたものであれば同控除の適用が認められるのに対し、「新築」とされてしまうと適用が認められないことになり、すなわち、旧建物を取り壊して新しい構造の建物を建てることが、「改築」に当たるのか、あるいは「新築」に当たるのかが争点となったのです。

さて、既存の建物を壊して、用途、規模、構造が著しく異なる建物を建てることは、「建て替えた」という意味では「改築」に当たるようにも思われる一方、見方を変えると、「新しく建築した」という意味では「新築」に当たるようにも思われます。

Xが「改築」に当たるとして、住宅借入金等特別控除の適用を求めたのに対し、税務署長Y(被告・被控訴人)は「新築」に当たるとして、同控除の適用を否認しました。

見解が分かれた地裁と高裁判決

第一審静岡地裁平成13年4月27日判決は、租税特別措置法41条にいう「改築」の意義を建築基準法上の「改築」と同義に解釈すべきとした上で、同法において、用途、規模、構造が著しく異なるような建築は「改築」には当たらず「新築」に該当するとして、本件事案は「改築」ではないことから住宅借入金等特別控除の適用は認められないと判断しました。

これに対して、控訴審東京高裁平成14年2月28日判決は、かかる判断を覆して、租税特別措置法41条にいう「改築」を建築基準法にいう「改築」と解釈する必要はないとします。

すなわち、一般的に、「改築」とは建て替えることをいうと判断した上で、本件事案は、「改築」に該当することから、住宅借入金等特別控除の適用が認められると判断したのです。なお、この事件は控訴審において確定しています。

建物全部の建替えが「新築」に当たるか「改築」に当たるかが争点となったこの事件は、租税法上の概念を巡って争われた極めて重要な事例として、多くの教科書でも紹介されるところです(例えば、金子宏『租税法〔第23版〕』126頁(弘文堂2019)、酒井克彦『レクチャー租税法解釈入門』122頁(弘文堂2015))。

「全部改正」と「廃止制定」

さて、法令改正に目を転じてみましょう。

法令の全部を廃止して改正する場合にこれを「全部改正」ということは一般に知られているところかと思われますが、他方で、既存のある法令を廃止して、いわばその身代わりになるような新しい法令を制定することを「廃止制定」といいます。

すなわち、既存の法律や命令を形式的に存続しつつ、その内容を全面的に改めることを「全部改正」という一方、ある法律や命令の内容を改める場合の手段として、既存のある法律や命令を形式的に廃止し、その代わりに新しい法律や命令を制定することが「廃止制定」というわけです。

しかし、やっかいなことに、どういう場合に「全部改正」の方法が用いられ、どういう場合に「廃止制定」の方法が使われるかについては、特に決まった基準はないといいます(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』134頁(日本評論社1975))。

これらの区別は如何になされているのでしょうか。これは、上記の「新築」か「改築」かという問題関心の法令版であるといってもよさそうです。

同書によると、「ある法律制度についてその制度そのものの根本は維持しつつ、それを巡る法律規定をいろいろの都合から、全面的に又は大部分を改めようとする場合」には、「全部改正」が用いられ、「ある法律の内容を全面的に又は大部分改めようとする場合で、新旧法律制度の継続性が比較的うすく、別の法律にした方が適当」というときには、「廃止制定」のやり方が用いられるようです(同書134頁)。

所得税法大改正

さて、所得税法は昭和40年に大改正がなされています。
これは、改正当時、所得税制度の根本を維持しつつ、その全文を書き直したという意味で、「全部改正」ということになるわけです。

この所得税法は、昭和40年以降、社会の変容に応じて改正に次ぐ改正を重ねてきています。建築物でいえば、「改築」に次ぐ「改築」がなされてきているといえるでしょう。

まるで、大きな温泉旅館たる老舗ホテルの様相を呈しているといってもよいかもしれません。
新館に宿泊する客が温泉を利用する際、ホテルの1階ロビー階に出て、スロープで一旦地階に降り、中庭を通過してから旧館の温泉に行くというような具合です。

改築を繰り返した挙句、極めて分かりづらい構造の建物になってしまったのが今日の所得税法というわけです。

そろそろ、全面的な「改築」を行って、「新築」といえるような建物に「全部改正」しなくては制度疲労を起こしているのではないでしょうか。

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著者: 酒井克彦

中央大学法科大学院教授/法学博士

中央大学法科大学院教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』、『クローズアップ事業承継税制』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔3訂版〕』、『裁判例からみる税務調査』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ改正相続法の税務』、『キャッチアップ外国人労働者の税務』、『キャッチアップ保険の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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