所得税法73条《医療費控除》2項は、医療費控除の対象となる医療費について、「医療費とは、医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。」と規定します。ここでは、診療や治療が念頭にあるわけですが、「老化」は診療や治療の対象となる疾病(病気)に当たるでしょうか?すなわち、アンチエイジングを診療又は治療として捉えることができるのか、租税法領域の外から眺めてみましょう。

老化、病気そして死

医学の進歩に伴って、アンチエイジングの手法も日々進化していることでしょう。

例えば、その一つに、自己多血小板血漿療法(PRP療法)という療法があるそうです。受診者の血液を採取して、そこから高濃度血小板血漿を抽出し、それを肌の気になるところに注入するという再生医療ですが、このような方法により、目じりのしわや、ほうれい線、肌のたるみ、ニキビ跡、首のシワなどに効果が発揮されるといいます。このようなアンチエイジングのための療法に要した費用は医療費控除の対象となるのでしょうか。

老化に伴う視力低下に対して、一定の要件の下でのいわゆるレーシック手術の費用が同控除の対象と解されていることを前提とすると(樫田明=今井慶一郎『医療費控除と住宅借入金等特別控除の手引き〔令和3年3月申告用〕』67頁(大蔵財務協会2020))、それも認められる余地があるようにも思われます。

さて、どんなにアンチエイジングをしても、少なくとも現代の医療技術では人はいつか必ず死んでしまいます。医学者の黒木登志夫教授(東京大学名誉教授)は、「寿命は、生物が選んだもっとも賢明にして冷徹な結論である。」と述べられますが(黒木『健康・老化・寿命〔第4版〕』ⅱ頁(中央公論新社2013))、「死」を俯瞰して見ればたしかにその通りでしょう。

いわゆる早老症と呼ばれる、ハッチントン・ギルフォード症候群、ウェルナー症候群などという遺伝子(細胞核のフィラメントの遺伝子やヘリカーゼの遺伝子)に基因するといわれている病気を除けば(黒木・前掲書49頁)、そもそも、老化は病気なのでしょうか?