原油などの資源価格をはじめ、世界の株式市場が急落に見舞われる中、逆行高なのが金だ。金融市場では「有事の金」といわれるが、今まさに金が輝きを増している。とくに、日本国内においては、日銀がマイナス金利を導入してから、実体経済の悪化の反動で金市場に投資が増えている。なぜいま金が動いているのか、最近の動きを分析するとともに、金の税金の特典について紹介する。

有事により輝きを増す「金」

3月5日のNHKBS放送で「マネーの狂わせた世界で-金融工学者の苦悩と挑戦-」という興味深い番組を視聴した。
番組の内容は、米国において運用資産6600億円の投資ファンドを率いる韓国系金融工学者が、高度な金融工学を駆使しソーシャル・インパクト(社会的貢献投資)に挑戦する姿を描いたもの。彼の投資はギリシャの個別企業に対するアプローチが中心なのだが、別のファンドでは、リーマンショック後の米国ボルチモアの貧民街を再生し、年間3~4%のリターンを出す、ある意味違った角度からの投資だった。

番組の冒頭でその韓国系金融工学者は、現在、世界で投資されているマネー総額は100兆ドル、日本円にすれば1京1千兆円であり、その中で10~20兆ドル(1100~2200兆円)が行き場なくさ迷っていると語っていた。
この未曾有の金融緩和による全世界的な“金余り”時代、金地金の現物価格は2015年12月に目先の底である1トロイオンス(約31グラム)1050ドル台から、2016年3月4日現在1262ドルに上昇した。2007年平均1トロイオンス当たり695ドルだったから、倍近く価格が上昇したわけだ。

リーマンショック後は、日米欧世界の3極を中心に量的緩和の世界となり、特に米国量的緩和(QEⅠ~QEⅢ=2014年10月終了)は、世界中に緩和マネーをばらまいた。とくに日本は2013年4月4日、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁による、異次元量的金融緩和まで対応が遅れたため、2011年平均1ドル80.79円、2012年平均1ドル80.81円と円高に苦しめられた。
特筆すべきは、このころ、日本円ベースの金地金小売価格は上昇傾向にあったこと。

今年に入り息吹き返す「金」

2007年平均で1グラム当たり2659円(年平均1ドル118.86円)だったものが、2011年には4060円、2012年は4321円まで上昇した。その後は2015年で4564円(年平均1ドル122.11円)としばらく停滞していたが、実は今年に入り金は息を吹き返した。
その節目になったのが、2016年1月29日の日銀のマイナス金利の導入だ。

今年に入り世界的には、実体経済の悪材料が噴出。欧州中央銀行(ECB)理事会が3月に追加緩和示唆、さらには、中国が2月29日、預金準備率引き下げを表明した。こうした動きの中、米国などを中心に、足元では金に新規資金が流入していた。その根拠として金ETF(上場投資信託)の純資産残高が増加している。
そして国内では、黒田日銀総裁によるマイナス金利の導入が発表され、金は一気に上昇トレンドに入った。

この日銀のマイナス金利だが、日銀によれば3階層構造方式となっており、取引金融機関全体の当座預金残高を当初260兆円と仮定。プラス0.1%金利が適用される残高を約210兆円とし、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高当初約40兆円(所用準備高9兆円+貸出支援基金及び被災地支援オペ30兆円)を差し引いた10兆円が政策金利残高で、マイナス0.1%が適用されるとしている。
年間増加予定の80兆円はこのマクロ加算部分で調節されるもので、政策金利残高は動かさないとしている。この所用準備高9兆円については、以前はマクロ経済学の定番金融政策で支払準備率操作により機動的に増減させていたが、量的緩和政策が導入されて以降はほとんど意味を成さなくなっている。

黒田総裁は国会答弁でも「マイナス金利政策はイールドカーブの起点を引き下げる効果がある」としているが、このイールドカーブは、縦軸国債の利回り(yield)を横軸償還期間に対して示した曲線で、結果論になるが、概ね期間2年以上のものは0.1%ほど金利が引き下げられている。この動きにより国債購入よりも投資に回るとしているのだ。
論理的には分かるが、国民感情はどう動くか?
あまり聞き慣れない「マイナス金利」の導入で、金庫を買う人が増えたとも言われ、金地金を買う動き(大手金地金商によれば2月は1月の1.5倍=3月7日読売朝刊)も出てきている。