IT監査の導入や業務の複雑化など、監査法人を取り巻く環境の変化は激しさを増し、業界地図は変動を続けています。前年度はEY新日本が首位を陥落しトーマツがトップとなりましたが、今年度は更なる地図の塗り替えがあったのでしょうか。今期の業績について確認してみましょう。

※2020年度版はこちら
2020年版 4大監査法人の業界地図~業績から分析~各監査法人ともに収入増へ
1.業務収入は全法人増加、あずさが2位に浮上

今年も業界地図に変化が訪れました。前年度トーマツがEY新日本から首位を奪取し、そして今年はあずさが2位に浮上したことで、EY新日本は3位に沈みました。4位は変わらずPwCあらたとなっています。
○監査証明業務ではあずさが2位浮上
監査証明業務はEY新日本が変わらず圧倒的な1位となっています。他方、あずさがトーマツを追い抜き監査証明業務で2位浮上の結果となりました。
また、非監査証明業務ではトーマツ、PwCあらた、あずさ、EY新日本の順となっています。
監査証明業務で1位、非監査証明業務で4位と極端な結果を見せるEY新日本は、監査業務への特化がより鮮明となった2019年版の結果となりました。
○営業利益、当期純利益ともにあらたが圧勝
営業利益は低調な流れが続いています。営業利益、当期純利益ともにその値も率もPwCあらたが抜きんでた結果となりました。
PwCあらたに次いで営業利益2位はあずさで、営業利益率1.8%の18億500万円。EY新日本とトーマツは営業利益率1%以下で、それぞれ3億7500万円と2億5600万円と、低収益体制が鮮明となっています。
当期純利益は、PwCあらた以下、トーマツ、あずさ、EY新日本と続きます。当期純利益率はあずさとEY新日本が1%を切り、それぞれ7億7200万円と2億8900万円と赤字転落しないギリギリのラインです。
2.法人別過去3期の業績推移
①トーマツ:業務収入増も営業利益で沈む

監査証明業務収入では、業界3位とはいえ前年度比3.8%増と堅調な伸びを見せています。一方、非監査証明業務は、今期2.3%増と微増にとどまりました。
営業利益率は0.2%と極端に低い結果となりましたが、業務費用の明細を見ると、業務基幹システム開発運用に係る費用およびグループ分担金が増大していることがひとえに営業利益を圧迫していることが分かります。
前年まではシステム関連分担金とされていた費用(10億8200万円)とグループ分担金に含まれていた業務システムへのセキュリティ対策などの費用を合わせ、今期新たに「IT業務分担金」として発生した費用が28億6000万円となりました。
グループ分担金からシステム関連費用が減ったはずなのに、前年度78億5800万円だったグループ分担金が今年度104億1900万円と25億6100万円の増額となっています。トーマツ単体ではなく、デロイト トーマツグループ全体の投資活動がトーマツの利益を圧迫する結果になりました。
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②あずさ: 堅調な伸びを見せるも当期純利益は減

業務収入がとうとう1千億円の大台に乗りました。監査証明業務は2.3%増、非監査証明業務は8.0%増の伸びを見せています。非監査証明業務は、2017年8月から新規受注を1年間停止した影響を受けてか前年度一度落ち込んだものの盛り返しを果たしました。
前年度に0.5%と極端に落ち込んだ営業利益率は今年度1.8%と少し持ち直す結果に。業務費用は情報システム関連費用が2億7800円増などの影響で20億7000円、前年度比2.1%増となっていますが、それを上回る業務収入の増加が利益率上昇に資する結果となりました。
しかし営業外費用がかさみ、当期純利益率は0.8%と落ち込みました。前期今期とギリギリな決算書が続きますが、来期どうなるかが注目です。
③EY新日本:業務収入の下落は踊り場か

前年度に減少となった業務収入は今年度0.4%増となりました。業務収入を復活させたのは、監査証明業務収入が前年度比1.8%増となったため。
全体の収入の伸び率が他法人より劣るのは、非監査証明業務の落ち込みが大きな原因です。
業務収入に占める非監査証明業務の割合は前年度から1.2ポイント減の14.8%と低下する一方ですが、これは非監査証明業務をEYグループ法人であるEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングに移管しているためです。監査証明業務に特化した法人への移行が進みます。
EY新日本の業務費用の詳細を見ると、相次ぐ人員削減を受けて退職給付費用が5億600万円増、研修関連費用が1億5700円増、IT及び通信費が7億1000万円増など増額しています。一方、2018年2月に本部を日比谷国際ビルから東京ミッドタウン日比谷に移転したことから、施設賃借料は51億6300万円から40億4000万円の11億円の減額となりました。結果として18億200万円の業務費用増となり、営業利益低下を招きました。
④PwCあらた:監査、非監査ともに堅調な伸び

監査証明業務は前年度比4.6%増。一方非監査証明業務は9.2%増となっており、結果として非監査証明業務が業務収入に占める比率は50%目前まで迫っています。
採用活動や人件費など先行費用がかさみ低利益率だった前期と比べ、営業利益は前年度比32倍、当期純利益は28倍という極端なまでの増益を見せました。これは、業務収入が31億1300万円増となっていながら業務費用を前年度455億3400万円、今年度458億7000万円と3億3600万円の増額に抑えられた結果です。
業務費用の明細を見ると、報酬給与は6億600万円減額しているにも関わらずその他人件費が9億6700万円増加しています。また、IT機器費用が3億3600万円から9億3700万円に3倍近く増えています。
一方、外注費は3億1600万円、賃借料は1億3900万円減額に。賃借料の減額は2017年7月に汐留浜離宮ビルから大手町パークビルディングに移転したことによるものとみられます。
○増額傾向の監査報酬に支えられる業績
業界内での順位の変動が激しいここ数年ですが、3期比較でみるといずれの法人においても増収していることが分かります。これは監査報酬自体がいま増加傾向にあるためとみられます。
一方、PwCあらた以外の法人において費用がかさみ営業利益が少ないのは、IT監査導入によりコストが増大していることが挙げられます。監査業務はいまドラスティックな変化の途中にあり、報道によれば「これまでに経験したことのないスピードで経営環境が変化している」(『日本経済新聞』2019/8/14電子版)というコメントもあります。データ分析を専門とする人材の雇用も促進されており、これまでの公認会計士の数が頼りという人海戦術監査から、AIやデータ分析を駆使した監査へと変化を遂げつつあります。
その一方、年々高額化する監査費用を忌避して大企業でも中堅以下の監査法人に変更している例も数多く見られます。
監査報酬の増加に企業がどこまで耐えられるのか、報酬がアップしても利益が出せない監査法人の経営体質はどう変わっていくのか。今後に注目です。
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※参考資料
◆有限責任監査法人トーマツ:第52期 業務及び財産の状況に関する説明書類
◆有限責任あずさ監査法人:第35期 業務及び財産の状況に関する説明書類
◆EY新日本有限責任監査法人:第20期 業務及び財産の状況に関する説明書類
◆PwCあらた有限責任監査法人:第14期 業務及び財産の状況に関する説明書類
◆日本経済新聞電子版 2019/8/14「大手監査法人、AI時代どう生き残る」
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