はじめまして。公認会計士さくま会計事務所の佐久間です。新連載【非営利法人の会計と制度】では非営利法人の分野でホットな話題を連載していきます。第一回の今回は、非営利法人業務の広がりについての第1弾をご紹介します。

はじめに
私は、1989年に公認会計士2次試験(旧試験制度)に合格し、国内の大手監査法人に入所してから、2018年に退所するまで29年間、主に株式公開会社やその子会社などの会計監査に携わってきました。
その間には、株式公開準備の業務にも携わり、数社が株式公開を果たしましたが、このような株式会社のほか、1998年頃からは公益法人や学校法人など非営利法人についても携わるようになり、徐々にではありますが、その業務領域が広がってきました。
最近、このような非営利法人の分野について、更にホットになりつつあることが生じていますので、これに関するインフォメーションを連載していきます。
なお、非営利法人に分類される法人としては、特定非営利活動法人(NPO法人)、各種の組合(農業協同組合、生活協同組合、労働組合など)や宗教法人も存在しますが、この連載では学校法人、公益法人、社会福祉法人および医療法人を扱います。
1. 非営利法人への法定監査の導入について
日本公認会計士協会の会長声明「非営利法人への公認会計士監査の導入に当たって」が公表されたのは2016年10月でした。これは、一定規模以上の社会福祉法人や医療法人について新たに公認会計士監査が導入されることが制度化され、その導入前に会員各位(公認会計士)に業務上の注意喚起を促すものでした。ここで、一定規模とは、次の通りです。
【社会福祉法人】
●2017年4月1日に開始する事業年度から、収益30億円超または負債60憶円超の社会福祉法人は法定監査を受けることが義務となりました。なお、この規模基準は段階的に引き下げられる予定で導入されましたが、2017年度の監査導入の結果、現在その段階的引き下げが検討中の状況にあります。
【医療法人】
●2017年4月2日に開始する事業年度から、負債50億円以上または収益額70憶円超の医療法人は法定監査を受けることが義務となりました。この適用時期から、3月末が決算期の一定規模の医療法人は、2018年4月1日に開始する事業年度から、法定監査を実施することになります(次の社会医療法人も同様)。
●2017年4月2日に開始する事業年度から、負債20億円以上または収益額10憶円超の社会医療法人は法定監査を受けることが義務となりました。
一方、学校法人には私立学校振興助成法による監査(いわゆる私学助成法監査)が、また一定の規模以上の公益法人には会計監査が既に制度化されました。
【学校法人】
●私立学校振興助成法により、経常的経費について補助金の交付を受ける学校法人
【公益法人】
●収益1,000憶円以上、負債および損失の合計1,000憶円以上、または負債50憶円以上の公益社団・財団法人
●負債200憶円以上の一般社団・財団法人
●自主的に定款で会計監査人を設置した法人
2. 監査対象の法人数について
それでは、法定監査の対象となっている非営利法人の法人数は、どのくらいあるのでしょうか。
以下においては、日本公認会計士協会が公表した資料に基づいて、2018年度の法定監査の対象法人数および監査報酬(年間)平均額を示します。
【学校法人】
学校法人の監査対象は4,857法人であり、監査報酬(年間)平均額は1,784千円となっています。一方、会社法監査の対象法人は5,782法人あり、監査報酬(年間)平均額は12,442千円となっています。これらを比較すると、法人数では学校法人も多数ですが、監査報酬(年間)平均額が低いことが分かります。
ただし、この数値は都道県知事所管の高校・中学・小学校法人や幼稚園法人を含んでいます。文部科学大臣所管の学校法人だけでみれば、対象法人は640法人、監査報酬(年間)平均額は6,702千円となっています。これを多いとみるか、少ないとみるか、それによって業務へのかかわり方が異なってくると思います。
【社会福祉法人】
社会福祉法人の監査対象は414法人であり、監査報酬(年間)平均額は5,003千円となっております。先に述べた通り、現時点で監査対象となるのは収益30億円超または負債60憶円超の社会福祉法人となります。
厚生労働省が公表している「社会福祉法人の現況報告書等の集約結果(2018年度)によれば、全国に社会福祉法人は20,818法人が登録されていますので、そのうち法定監査を受けているのは、2018年度においては約2%ということになります。今後、監査対象の規模基準が下がれば、監査対象の法人数が拡大することになります。
【医療法人】
医療法人の監査対象は427法人であり、監査報酬(年間)平均額は4,985千円となっております。先に述べた通り、2017年4月2日に開始する事業年度から、一定規模の医療法人は法定監査を導入しているため、日本公認会計士協会の資料(2018年度)は、この法定監査の導入を原則として反映しています。
なお、厚生労働省が公表している統計資料によれば、2018年3月末現在、全国の医療法人は53,944法人ですので、法定監査を受けている医療法人は、1%未満であると推測されます。
【公益法人】
日本公認会計士協会の資料(2018年度)には、公益法人の法定監査に関するデータが記載されていません。そこで、内閣府公益認定等委員会が公表している平成30年度「公益法人の概要及び公益認定等委員会の活動報告」を参照すると、公益法人9,561法人のうち、その3.7%の350法人が法定監査を受けていると記載されています。
ただし、公益法人は、他の法人と異なり、非常に多くの法人が任意の監査を受けています。その理由の一つとして考えられるのが、いわゆるKSD事件の発生を契機として、行政庁が監査を受けるよう過年度に指導した時期があったところによると思われます。
次回は、この事件などを契機とした、法人類型別の制度(ガバナンス)改革を、今後の動向も含めて時系列的に考察しつつ、業務領域の拡大について紹介します。
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