最近、非営利法人の分野について、ホットな話題が多く生じております。そこで、前回までは、第1弾として非営利法人分野に導入されている監査の種類(一定規模の社会福祉法人や医療法人に、法定監査が最近導入されました)、各種法人の法定監査の法人数や監査報酬(年間)平均額、第2弾として最近の制度改正と今後の動向などをお伝えしました。
今回は、非営利法人(法人類型別)の会計基準について、その特徴と改正の動向について解説します。
なお、非営利法人に分類される法人としては、特定非営利活動法人(NPO法人)、各種の組合(農業協同組合、生活協同組合、労働組合など)や宗教法人も存在しますが、本連載においては割愛させて頂きます。本件の連載において、非営利法人として取り扱うのは、学校法人、公益法人、社会福祉法人および医療法人とします。
1. 非営利法人(法人類型別)の会計基準の特徴について
民間企業ご出身で非営利法人の役員(理事・監事)に就任された方からよく伺うのが、学校法人や公益法人など非営利法人の決算書が分かりづらいということです。特に損益計算書に相当するフローの計算書が分かりづらいようです。また、貸借対照表についても、純資産の内訳については、非営利法人の類型間で統一されておりません。
ましてや、個別の会計処理については、会計専門家でも、ちゃんと答えられる方は少ないのではないでしょうか。
今回は、特徴となる点が分かるように項目だけを列挙させて頂き、その具体的な内容については、非営利法人の類型別インフォメーションとして、次回以降にお伝えいたします。
①学校法人
【財務報告の枠組み】
- ・学校法人会計基準(制定1971年、最終改正2013年)
【主な財務書類】
- ・資金収支計算書及びその内訳表、活動区分資金収支計算書(知事所管法人は省略可能)
- ・事業活動収支計算書及びその内訳表
- ・貸借対照表及びその明細表
- ・財産目録
- ・収支予算書
【会計基準の特徴】
- ・純資産に「基本金」の区分があります。基本金は、第1号基本金から第4号基本金に区分されて計上されます。
- ・有価証券やデリバティブ取引が存在しても、これらに金融商品会計基準を適用する規定がありません。保有する有価証券には、いわゆる強制評価減のみが適用されます。このほか、固定資産の減損会計、資産除去債務、偶発債務、関連当事者との取引などの規定がありません。
②公益法人
【財務報告の枠組】
- ・公益法人会計基準(制定2008年、最終改正2009年)(注:2020年に改正が予定されています)
【主な財務書類】
<公益社団・財団法人の場合>
- ・貸借対照表及びその内訳表
- ・正味財産増減計算書及びその内訳表
- ・キャッシュフロー計算書(大規模法人以外は作成を省略することができます)
- ・附属明細書
- ・財産目録
- ・収支予算書
<一般社団・財団法人の場合>(※)
- ・貸借対照表
- ・正味財産増減計算書
- ・附属明細書
(※)公益目的支出計画実施中の法人(移行法人)は、通常は内訳表も作成します。また、移行法人以外は企業会計を採用する場合もあります。
【会計基準の特徴】
固定資産を「基本財産」、「特定資産」及び「その他固定資産」に区分します。また、純資産を「正味財産」といい、正味財産を「指定正味財産」及び「一般正味財産」に区分します。他の法人形態にこのような概念や区分はありません。なお、基金制度を採用している場合、正味財産は「基金」、「指定正味財産」「一般正味財産」に区分されます(正味財産増減計算書の増減の部も同様に区分されます)。
- ・反対給付のない収益(受取寄付金、固定資産受贈益、国庫補助金等)について、その使途に制約がある場合は、原則として、指定正味財産の増加とし、これを正味財産増減計算書「指定正味財産増減の部」に計上します。
- ・固定資産については、企業会計とは異なる減損会計が規定されています。
③社会福祉法人
【財務報告の枠組み】
- ・社会福祉法人会計基準(制定2016年、最終改正2018年)
【主な財務書類】
- ・貸借対照表及びその内訳表
- ・資金収支計算書及びその内訳表
- ・事業活動計算書及びその内訳表
- ・附属明細書
- ・財産目録
【会計基準の特徴】
- ・財務諸表として、法人単位のもののほか、事業区分及び拠点区分のものも必要になります。
- ・固定資産に「基本財産」が、また純資産に「基本金」が区分されます。基本金は附属明細書において、第1号基本金から第3号基本金に区分して記載されます。
- ・固定資産に「積立資産」が、また純資産に「積立金」が区分されます。
- ・固定資産については、公益法人会計基準と同様、企業会計とは異なる減損会計が規定されています。
④医療法人
【財務報告の枠組み】
- ・医療法人会計基準(制定2016年)
【主な財務書類】
- ・貸借対照表
- ・損益計算書
- ・附属明細書
- ・財産目録
【会計基準の特徴】
- ・純資産に「積立金」が区分されます。(持分の定めのある社団医療法人には「出資金」が、また基金制度を採用する社団医療法人には「基金」が区分して計上されます)
- ・固定資産については、公益法人会計基準と同様、企業会計とは異なる減損会計が規定されています。
- ・一定規模に達しない法人には、リース取引・貸倒引当金・退職給付引当金について簡便的な会計処理が容認されています。
2.会計基準に関する今後の動向について
企業会計基準は公益財団法人財務会計基準機構企業会計基準委員会(ASSBJ)がその設定主体となり、一般に公正妥当と認められる会計の基準を策定しています。
一方、非営利法人(法人類型別)会計基準は、その設定主体である行政庁(学校法人は文部科学省、公益法人は内閣府、社会福祉法人・医療法人は厚生労働省)が異なることから、必ずしも統一的な考え方を基礎としておらず、ガバナンス(情報公開)の面でも課題が指摘されていました。そこで、日本公認会計士協会では、非営利法人委員会研究報告第25号「非営利組織の会計枠組み構築に向けて」が2013年に公表されました。その後、同協会で非営利組織会計検討プロジェクトが発足し、現在、基準策定の参考となるモデル会計基準の策定作業が進行しています。近い将来、非営利法人についても、法人類型別に会計基準が異なるのではなく、全体をカバーするような会計の枠組みが策定されると思います。
次回以降は、法人類型ごとに、制度や会計などをより詳しく連載してまいります。
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