新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、政府は4月7日、7都府県に緊急事態宣言を発令、次いで4月15日には、対象を全国に広げた。今や「自宅でテレワーク」は、国を挙げての目標だが、税界でこれを妨げているのが税理士法。「秘密を守る義務」「二重事務所問題」が足枷となってきたが、ここにきて日税連からテレワークに関する指針が発表された。
これまで、税理士および税理士事務所職員の「在宅勤務」、いわゆる「テレワーク」は、税理士法上の観点からその是非が問われ続けてきた。
問題視されるのが税理士法第38条「秘密を守る義務」、同54条の「税理士の使用人等の秘密を守る義務」、同40条第3項の「二か所事務所の設置の問題」だ。
昨年、日本税理士会連合会(日税連)制度部の見解が引き金となり、「在宅勤務」の容認と捉えられるような動きもあったほか、東京税理士会でも定期総会の質疑応答で、「在宅勤務は現行法上問題なく、職員の在宅勤務も許される」という、公式見解ともとれる発言があり、業界内で話題となった。いずれにせよ、次期税理士法改正を睨んで、どのように「在宅勤務」を解決していくのか、日税連では検討中だった。
こうしたなか、新型コロナウイルスの感染拡大対策として外出自粛が要請され、テレワークが推奨されるなか、日税連制度部から緊急措置として、「税理士の業務とテレワーク(在宅勤務)~新型コロナウイルス感染防止対応版~」が公表された。これはあくまでも、新型コロナウイルス感染拡大への対応の観点から、緊急的に「テレワーク類型のうち在宅勤務に関するFAQを取りまとめたもの」で、現状の税理士法の範囲でテレワークに関する疑問について見解を示しただけだ。
開業税理士と社員税理士は2カ所事務所に注意
これによると、開業税理士に関しては、自宅とは別の場所で開業登録している場合、税理士法では、「税理士業務を行うための事務所を設けること」を義務付けているものの、税理士業務については税理士事務所以外の場所で行うことまでは制限されていないと考えられる」という見解を示し、「自宅であっても税理士は税理士業務を行うことができる」としている。
また、税理士法40条第3項の「2カ所事務所の設置禁止」の考え方として、臨時的に仕事を家に持ち帰り税理士業務を行うことや、自宅への来客に対して一時的に税務相談に応じたとしても、対外的に自宅が税理士事務所と判断される表示などがなければ、「2カ所事務所の問題は生じないと考えられる」としている。
税理士法人の社員税理士の場合は、同法40条第4項の「税理士業務を行うための事務所を設置することができない」ため、自宅を本店または支店として登記している場合を除き、自宅で税理士業務を行うことはできないとしている。ただ、社員税理士が臨時的に仕事を自宅に持ち帰り税理士業務を行ったり、自宅への来客に対して一時的に税務相談に応じるなどの行為は、開業税理士同様に2カ所事務所の問題は生じないとの見解を示した。
スタッフの場合は管理・監督が明確にできているか
問題は使用人であるスタッフだ。
税理士及び税理士法人のスタッフの場合、そもそも税理士登録者ではないため、自宅で補助業務を行ってもそこが税理士事務所になることはない。対外的に勘違いされるような表示をしているならば、ニセ税理士として処罰される可能性がある。そのため、通常は2カ所事務所の問題は発生しない。ただ問題なのが、税理士の「監督・管理」義務の問題だ。FAQでは、どのように「管理・監督」を行うか、実務的な対応部分について指摘をしている。
それによると、税理士または税理士法人のスタッフに対する監督が明確である状態として、平時での業務の進め方と同じようなシステムであれば、「管理・監督」義務が果たされていると捉えることができるとしている。
具体的には、顧客情報のサーバーへのアクセスに関して税理士及び税理士法人で「ログイン」「ログアウト」の確認が取れるようにしておくことや、スタッフの業務記録(ログ)を保存し、確認ができるようにしておくことを挙げている。
また、税務書類作成業務の補助業務に関しては、税理士や税理士法人の確認を経てからでないと申告事務に入れないように、あらかじめ制限を設けておくことやニセ税理士行為を防ぐため、税務書類等の印刷、電子送信を自宅ではできないようにしておくなどの事例を挙げている。
このほか、スタッフが顧問先の資料を自宅に持ち帰る場合は、守秘義務違反にならないように保管場所等を確保させるなどを指摘している。