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【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第27回/キューバの医療外交と、税負担の高い社会主義国家のカラクリを解剖

人気連載第27弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は新型コロナウイルス感染症(COVID-19) の世界的な蔓延を受け、医療外交を進めるキューバと、そのシステムを支える税制についてご紹介します。

2016年のキューバ旅行

カリブ海に位置するキューバ共和国。社会主義共和制国家として有名な国ですね。

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行を受け、今この国への注目が高まっているのをご存知でしょうか?

 

その前に・・・

 

2016年12月、当時住んでいたニューヨークから、キューバの首都ハバナへ旅行に行っていました!

街中にチェ・ゲバラの壁画がありました

当時はアメリカ本土からキューバへの空路が解禁されたばかりでした。それまではカナダもしくはメキシコ経由で入国する必要があったため、街中が躍起になってキューバ旅行の話をしていました。

 

しかし、アメリカからの入国者については依然、観光目的の渡航は許可されておらず、以下のいずれかの目的での入国を前提としたビザを取得し、入国する必要がありました。

 

  1. 家族の訪問
  2. 政府関連公務
  3. ジャーナリズム活動
  4. 専門的な研究または会合
  5. 教育活動または団体での人的交流
  6. 宗教活動
  7. スポーツおよび公的イベント
  8. キューバ国民支援
  9. 人道的プロジェクト
  10. 研究
  11. 情報資料
  12. 認可輸出取引
  13. 一時渡航のキューバ国民

 

当時の私は「5.教育活動または団体での人的交流」目的でビザを取得したという記憶があります。

このビザの立て付けがどれほど厳しくチェックされるのか誰も分かっておらず、渡航中または帰国時に移民局のチェックが入るらしいとう噂が立っていました。

 

そんななか、このビザの要件を満たすために、入国した後は一挙一動を記録し、街で住民と会話をした履歴をノートに書き留めながら旅行をしました。

 

結局誰にもチェックされなかったのですが・・・振り返ってみると、細かな記録の残ったいい旅行になりました。

 

ハバナの街並みは、スペイン植民地時代の建築様式が未だに残っており、とても美しいものでした!

コロニアルな街並み!

1つネックだったのは、インターネット環境です。Wifiを使うにはプリペイドカードを1時間単位で購入して、一定のWifiスポットへ行く必要がありました。

 

キューバにおいて3G回線が開通したのは2018年になってから。今は環境が改善されているかと思いますが、私が旅行をした2016年当時はとても不便でした・・・。いい意味でデジタルデトックスができましたが。

Wifiカードは1時間単位での購入。その日に使い切る必要はなく、残り時間は後日再接続すれば使えます

キューバの医療外交

そんなキューバはもともと、国際舞台においては“医療外交”を行う国として有名でした。

WHO公表の統計によると、キューバには人口1万人に対し約67人もの医師がいます(World Health Statistics, WHO)。

 

これは世界第3位で、1位カタール(約77人)、2位モナコ(約72人)に続きます。

 

ちなみにドイツは約39人、アメリカは約25人、日本は23人です。キューバの67人がいかに大きな数字かということが分かるかと思います。世界的にみると、低所得国は1万人あたりの医師数が10人以下、中~高所得国は20~30人あたりが平均というところです。

 

キューバ共和国憲法50条をみると、以下のような記述があります。

第50条 何人も看護を受け、健康を保護される権利を有する。国は、この権利を保障する:

  • ・農村医療サービス、総合病院、病院、予防センター及び治療の施設網を通じて、無料の医療看護及び治療
  • 無料の口腔治療の提供
  • ・健康のための衛生の普及及び教育、定期健診、予防接種並びにその他の病気予防措置

(参考:キューバ共和国健康―解説と全訳―、吉田稔、早稲田大学

 

そう、医療サービスはすべて無料なのです。そして無料なだけでなく、往診を基本とするファミリードクター(Family Doctor=かかりつけの主治医)が各地域に点在し、プライマリーケア(Primary care=普段から何でも診てくれ、相談に乗ってくれる身近な医師)に何よりも重点を置いています。

ローカルな道にある本場のキューバサンド。表示はCUP(キューバペソ、ペソ・クバーノ)。1番高いもので200円くらいでした。なおキューバは二重通貨制です。USドルと連動したCUC(クック)が主に観光客用の通貨として使用されており、クック払いの店だと価格が高めだったりします

この制度を支えるには、医師の十分な供給が不可欠です。

 

そのために、キューバ国内の医科大学は無料で開設されています(キューバにおける大学はすべて国立です)。また医師をはじめとするヘルスケアスタッフは皆、Ministerio de Salud Pública, (”MINSAP”、日本の厚労省のようなもの)に雇用されており、公務員として安定的な立場を与えられています。

 

なおキューバ国内においては、MINSAPが人的サービス業界の中で最大の従業員を抱える雇用者です(参考:A Abdullah, N Wood, S Kinsella – 2016 NOHS “A Comparison of Global Social Welfare Policies and Programs: The United States, Bermuda, Cuba, and Denmark”)。ヘルスケアに従事する人口がとても多いのですね。

 

このような政策の結果、世界第3位の人口対医師数を誇っています。

 

さまざまな社会システムには一長一短がありますが、パンデミック(世界的大流行)を経験している今、医療サービスが完全に無料で受けられる国というのはなかなか魅力的ですね。

 

そんな医師の供給が潤沢なキューバは、例えば2010年のハイチにおけるコレラ流行、2014年西アフリカ各地でのエボラ出血熱の流行時などに、医師団を現地へ派遣してきました。

 

” Cuban medical internationalism (キューバの医学国際主義、いわゆる医療外交)”は、資源の少ないキューバの国策であり、大切な輸出資源として活用されています。これまで主に共産圏やアフリカ諸国、ラテンアメリカ諸国へ数万人を超える医師を派遣してきており、2018年末時点では、5万人を超える医師が67カ国へ派遣されていました。

(参考:”How Doctors Became Cuba’s Biggest Export?” November 2018, TIME)

 

そして新型コロナウイルス感染症の蔓延を受け、2020年3月21日には、イタリアのロンバルディアへ53名の医師団を派遣したのです。ついに西欧諸国への派遣へ踏み切ったことを皮切りに、キューバにおける医師の多さや医療制度そのものへの注目が集まっています。

キューバにおける医療サービスの財源

資本主義下の高福祉国家の代表例は、ヨーロッパ諸国です。これらの国の税制は一般に高税率であり、所得税制、資本税制及び消費税制のタックス・ミックスをバランスよく維持しています。高負担の代わりに高福祉が成り立っている構図です。

 

一方、キューバも高福祉国家であり、完全無料の医療サービスに加え、教育費も完全無料(記述のとおり医科大学の学費も無料)です。国家予算の4分の1は医療と教育に割かれており、有給の産休・育休も1年保証されています。

 

社会主義共産圏であるキューバにおいて、このような公共投資をする財源はどこにあるのでしょうか。更に言うのであれば、キューバの税制はどのようなものなのでしょうか。

 

共産圏の税制・・・と聞くと、“多くの経済活動が国営なら、税金はないのでは?”と思う方もいるかもしれません。実はキューバは、超高負担国家であり、その比率はヨーロッパ諸国を超えています。

 

Tax to GDP ratio(税収と国内総生産を比べたもの)は2018年実績で41.7%であり、これは多くの高税率国を抱えるOECD加盟国平均の34.3%をはるかに超えています(Revenue Statistics in Latin America and the Caribbean 2019, OECD)。ちなみに日本のTax to GDP ratioは31.4%、アメリカは24.3%です(ともに2017年データ)。

 

そんな高税収を誇るキューバの税収の内訳は、以下のとおりです。

参考:Revenue Statistics, Details of Tax Revenue – Cuba, OECD

 

特徴としては、

  • ・税収の半分以上がTax on Goods and Services (売上税や、一部物品税等)からきている。税率は卸の段階で2%、その他10%、ホテルやレストランサービスも10%
  • ・Individual Income Tax(個人所得税)の税収比率が極めて小さい(6%)。税率は5~50%。実際に負担する人口が少ない。
  • ・Corporate Income Tax(法人税)からなる税収は税収全体の約15%。キューバには国営企業が多いが、一部私企業へは税率15%が適用され、外国企業には35%が適用される。

が挙げられます。

 

共産圏といえど、日々の物品の購入を通して、市民は税負担をしていることが分かります。

レトロなかわいい車たち

日本からキューバへは、トロント経由で空路約15.5時間、メキシコシティ経由で空路約16時間です。

これら二つの経路から入国すると既述の13つの目的要件がないため、アメリカ経由で入るよりも気軽に観光が楽しめるかと思います。

 

少し遠いので気軽には行けませんが、コロニアルな街並みや陽気な市民を見に、新型コロナウイルスの終息後の大型旅行第1弾として、ぜひ検討してみてください!

 

今回のまとめ:キューバではラム酒をぜひ!

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著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

香港在住の税制コンサルタント。過去に東京、ニューヨーク、香港にて国際税務アドバイザーの仕事を行う。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。法学修士(香港大学)。慶應義塾大学法学部卒。

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