3月決算も終盤に差し掛かり、1年に1回の経営者とのメインイベントである「決算報告会」を開催する会計事務所も多いのではないでしょうか?ここで社長と”実りある会話”ができるかにより、会社の未来は大きく変わるかもしれません。”実りある会話”をするためには社長との信頼関係が必要不可欠です。本コラムでは、「会計人」が絶対に知っておくべき、信頼関係を築くためのコーチングスキルをご紹介します。

会計事務所や税理士法人で働いている税理士、会計士が「コンサルタントを目指したい」という話をよく聞きます。テクノロジーの進化により会計業界もデジタル化が進みました。記帳業務は専門職ではなくなって久しく、より付加価値をもとめてコンサルタントを目指す、という流れは、いわば時流であるとも思われます。

このような状況の中、経営者に対して「何を話せるようになるか」が重要なのはもちろんですが、それよりも重要なことがあります。

それは、「しっかりと聴くこと」です。

「そんなことか」と思われるかもしれませんが、この一見簡単なことが、実はとても難しいのです。この「しっかりと聴くこと=傾聴」は、単純に「一生懸命聴けばいい」というものではありません。そして、これができていないと、社長との信頼関係を築くことはできません。

まずは「傾聴」について、「聞く」「聴く」との違いを交えてお話しします。

傾聴

a.なぜ傾聴が必要?

経営者から本当の悩みを聞けている会計人が、日本にどれほどいるでしょうか?

「私は聞けていますよ。いつも月次訪問や決算報告会で社長と会社のことについて話しています」

「私は聞けています。よく社長は”いつも話を聞いてくれてありがとう”と言ってくれます」

このように仰る方もいるかと思います。”会計の専門家”としての見解を話し、さらに感謝してもらえるのは素晴らしいことです。しかし、もしかすると、あなたは「会計の専門家として」、又は「会計事務所職員として」社長と話すだけに終始していないでしょうか?税理士や公認会計士は税務会計の専門知識をもっているため、その分野以外の質問に回答することを躊躇します。(私も税理士なので分かります)

しかし、社長は何でもかんでも専門家に相談したいのではありません。自分の決断、考えていることの後押しをしてもらえる、示唆を与えてくれる、気付きを与えてくれる、そんな「相談役」が身近にいることに価値を感じてくれることもあります。

経営者の本当の悩みを聞くには、「社長の悩みをすべて解決する専門家」である必要はないのです。

「しっかりと聞いてくれる人」

「否定したりしない人」

に対して、自分の思考を整理するために話すことがあります。会計人が、このような場合の話し相手になることが重要です。それには「どんなことを話してもいいんだ!」という”心理的安全性”が担保された関係が非常に重要になります。この心理的安全性が担保された関係であれば、経営者から経営に関する様々な悩みを聞くことができるようになります。そして、このような関係性ができることが、社長との信頼関係を築く第一歩になります。

そこで、この心理的安全性が保たれた関係をつくるための第一歩、「きく」ということの区別をお話ししていきます。

b.「聞く」「聴く」「傾聴」の違い

ここでは、最初に「聞く」「聴く」「傾聴」の違いを整理しておきましょう。言葉の定義ではなく、「きく」という行為そのものの違いをイメージしてください。それは、その「違い」を整理していきましょう。

・「聞く(hear)」

意識しなくても、音が耳に入ってくる状態

「聞く」とは、ただ音が耳に入ってくる状態のことを言います。「喫茶店で流れている音楽が耳に入ってくる」ような状態です。経営者との会話では、この状態で聞いていることは、まずないでしょう。

・「聴く(listen)」

相手の伝えようとしている内容を熱心に聴いている状態

「聴く」は、ただ耳に入っている状態を超えて、心から相手の言わんとしていることを理解しようと、相手の言葉を耳と心で聴いている状態です。多くの場合、経営者との会話はここに当てはまります。

・「傾聴」

耳と心で相手を受け止め、相手に受け止めていること伝える聴き方

もっとも重要なのはこの「傾聴」になります。聴いているだけでなく、そのまま相手の言うことを受け止め、相手の言うことを理解し、相手の言うことを共感することが重要です。この、傾聴を意識することによって、相手は「なんでも話していい」という状態になり、相手の話す内容に違いが生まれます。

c.よくあるシチュエーション

たとえば、事務所の所長先生に業務報告やお客さまの相談をしているとき、「全然聞いていないな、所長…」と感じたことはありませんか?これは、所長先生が「聞く」の状態だからです。無意識的に所長は、あなたのこれから行う報告を、自分のこれまでの経験や培ってきた知識に照らし、既に答えを自分の頭の中では出してしまっています。

「こういう内容で、こうすればいい」と。

皆様にもこのような経験はあるのではないでしょうか?その状況の中で、部下が報告を始めても、既に「自分の答えを出してしまっている」所長は、”早く自分にしゃべらせろ”状態か、”早く報告終われ”モードに入っています。こうような状態では、すでに報告はシャットアウト。「どうせ愚痴だろ?」「そんなこと自分で解決してくれよ」と思っているかもしれません。ここまでネガティブではないかもしれませんが、忙しい所長先生であれば「ちょっといま忙しいな」という感情は当然でてくることでしょう。

このような対応をされたら、あなたはどう感じますか?あなたは話す気をなくしませんか?これが、社長との間でも起きている可能性があります。

d.「傾聴」の実践

傾聴は、しっかりと相手の話を受け止め、理解し、共感していることを、「意図的に」相手に伝えることも重要です。例えば、「相槌を打つ」「(驚く)などのジェスチャーをする」なども、大袈裟なぐらいにしてみるのもよいです。ご自身の「相槌」はどのようにされているか、意識したことはありますか?「相槌」一つでも、相手の話し方が変わることがあります。よく言われますが、「小さく細かく」相槌を打つと、落ち着きがないように見えることがあります。社長を相手にするときは、「大きく1回」の相槌の方が、頼もしく見えるかもしれません。そして、傾聴により、相手の話に共感していることが伝わることで、なんでも言いやすい関係性、雰囲気を創ることができます。これが、経営者と会話ができるようになる第一歩です。

「傾聴」は実践が需要

傾聴の姿勢は、一朝一夕で身につくものではなく、実践・トレーニングが一番です。

日々の暮らし、生活、仕事のなかで、是非意識して取り組んでみてください。

 

(執筆協力:みらいコンサルティンググループ 松岡勇治・小谷野華)

 

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