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会計士 中村亨の「経営の羅針盤」第4回-大廃業時代のススメ「事業や戦略の再構築②」

日本クレアス税理士法人/株式会社コーポレート・アドバイザーズ代表の中村亨です。経営者として、また会計士としての日ごろの経験から、皆さんのビジネスやキャリアのヒントとなるようなトピックスをカジュアルにお伝えしていきます。前回に引き続き、今回のコラムでは不況をチャンスととらえて事業や戦略の構築に挑む際のポイントについて考えてみましょう。

「元号が変わると不況になる」という話題を皮切りに、不況をチャンスととらえて事業や戦略の構築に挑む方法としての「多角化戦略」についてお話をしています。

少し前回のサマリーをしておきます。

  • □「大廃業時代」を生き抜くには、残存者利益の確保、つまり何としても“生き抜く”ことを目指せ
  • □ 生き抜いて「勝ち組」になるために必要なことは差別化。その一つ目は「粗利を高くすること」
  • □ 二つ目は「収益のマルチチャネル化」つまり、「多角化」への戦略を取ること

中でも、中小企業の多角化の方法論として「隣地を攻める」ことに尽きる、ということをオリックスの事業戦略を例に挙げながらご紹介しました。

 

アンゾフの多角化マトリックスに見る、中小企業が狙うべき領域とは?

さて、多角化についてもう少し経営学的にとらえてみましょう。
やはり古典的ではありますがアンゾフの多角化マトリックスになりますね。

市場(顧客)と製品(サービス)の2つの軸から企業における事業の成長戦略を4つに分類したもので、自社の成長戦略を決定するときに使うフレームワークです。これまでの事業の成長が伸び悩んだときや、収益のマルチチャネル化を考えたとき、さらに、事業をどの方向に延長していくか?ということを考える際にも有効な手法です。

また、実際に多角化を進める際には、その「手段」も重要です。「手段」には2つあり、自前で進める方法と、M&Aで進める方法の2つがありますが、今回のコラムではあくまでも前者(M&Aではなく、自前で進める)を前提としています。

 

①「市場浸透」-コカ・コーラやサブスクの多角化戦略

既存の製品・サービスで既存の市場での業績を伸ばす戦略です。この領域で成長を考えるなら、企業は同一顧客の購入頻度を高めるとか、販売ボリュームを引き上げることが必要になります。

かつてコカ・コーラが「のどの渇きにコカ・コーラ」(のどが渇いたときに飲む)→「いつでもどこでもコカ・コーラ」(のどが渇いたときだけでなくリフレッシュのために飲む)→「no reasonコカ・コーラ」(理由もなく飲む)と展開していったのは、既存市場の中でいかに多頻度で飲まれようとしていたか?の顕著な例でしょう。

また、この領域の成長戦略として有効な手段は、顧客との関係性に重心を置くいわゆるCRM的な手法でしょう(CRM=Customer Relationship Management 顧客の情報を分析し、最適なアプローチを行うことによって売上の拡大や収益性の向上を目指すマネージメント手法のこと。)。いわゆるサブスクリプションモデル(定額課金)がその一つの形です。アマゾンの「アマゾンプライム」などがその例で、一定以上の会員規模を超えると収益性が高くなっていくというものです。

 

②市場開拓-地理や顧客セグメントの多角化

新しい市場、つまり新しい顧客に向けて、既存の製品・サービスを投入する戦略「新市場」には2種類の考え方が存在するといわれています。ひとつは地理的なもの、もう一つは地理的には同じでも対象とする顧客セグメントを広げるという考え方です。

前者の例としては、日本企業の海外進出(自動車メーカーなどが販売エリアを広げる)がわかりやすいと思います。ユニクロもそうですね。2001年にユニクロ海外初店舗としてロンドンに出店した後、順調に海外店舗数を増やしています。2019年8月期の売上収益・営業利益・店舗数ともに、国内より海外ユニクロ事業の方が秀でた結果になっています。後者の例としては、男性用の衣服や香水などをユニセックス商品として女性にも販売するようなケースですね。これは顧客セグメントを商習慣上の距離という視点で考えることで突破口が見えてくるでしょう。

 

③製品開発-後発参入は自社の強みで勝つこと

既存の市場に新しい商品・サービスを展開する戦略です。新規のお客様へのアプローチではなく、既存のお客様へのアプローチですから、どのような「新商品」を開発するか?がカギになりますし、時間とコストも覚悟しなければなりません。そもそも市場は形成されているわけですから、後発参入になるため、差別化、区別化されたものがマーケットに出せるか?がポイントになります。この新製品・新商品の開発には「自社の強み」をしっかりと生かすべきです。このため今回は詳しく説明しませんが、自社の強みを認識するための3C分析やSWOT分析※を用いることが有効でしょう。

また、製品のライフサイクル(導入期→成長期→成熟期→衰退期)に注意が必要です。製品のライフサイクルが多様化しているため一概には言えませんが、成熟期に差し掛かっているところに新たに参入しようとしても、マーケットが「普及」しているという意味では「見えている」といえるのでしょうが、価格競争に入ったり、ノウハウの蓄積まで到達しなかったりするリスクは高いですね。このケースでは「導入期」あるいは「成長期」のうち「成長初期」のマーケットを選ぶのが無難だといえるでしょう。

 

④多角化-リスクが最も高いのは「無関連多角化」

既存の市場や顧客や製品に囚われず、新しい市場において、新しい製品・サービスを提供し成長する戦略であり、要するに無関連多角化ということです。市場にも製品にも「とっかかり」がないため非常にリスクが高いといえます。そもそも、ベンチャー企業は経営そのものが、この領域に属しているわけです。つまりベンチャー企業が成長する確率から、自社の人材とベンチャー企業の人材の優劣分を差し引いた分のリスクがある、と考えて良いでしょう。優先すべきはこの領域の「多角化」ではなく、「市場開拓」や「製品開発」からの検討です。体力が十分にある企業であれば別ですが、中小企業の多角化、という視点で考えると、避けたほうがよいと考えるのが通常です。

※3C分析とは「Customer(顧客)」「Corporation(自社)」「Competitor(競合)」の3つの視点で、SWOT分析とは「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の4つの視点でマーケティング環境を分析するフレームワークです。

 

収益のマルチチャネル化を達成するために乗り越えなければならない課題

もちろん、中小企業が多角化する場合の最大のネックは、経営資源(人と金)の追加投入の必要があるということになります。多くの場合は「人材の投入ができない」というのが実態だと思われます。

しかし、筆者の考えでは(もちろん企業の実態は経営者のみぞ知るところですが)、人材の配置転換をして思い切ってエース人材を今の部署から移動させて多角化という新規事業に充てるくらいの意気込みでないとなかなか成功しないというのがこれまでの経験則です(エース人材が抜けることでこれまでエースに頼っていた部署にもいい影響が出るかもしれません。)。言えることは、この課題を乗り越えない限りは、あるいは、この決断ができない限りは「収益のマルチチャネル化」を達成できない、ということです。

 

“資金繰らない”ことが経営者の本質

問題は、多角化に踏み切るタイミングです。

経営が追い込まれてしまった状態、つまり業績が良くない、あるいは資源が減少している状況では次の一手を打つのはかなりハードルが高いです。経営が追い込まれた状況では、将来のことを見据えて中長期の視点で手を打つことが難しくなります。

経営者の本来の姿とは、会社が困らないようにすることです。経営者の仕事とは、経営が差し迫った状況にならないようにするにはどうすればいいか?を日々考え実践することであると言えます。

経営者の資金繰りに関する書籍は数多くありますが、逆説的な言い方ですが「資金繰らないためには?」という視点が抜けているかもしれません。「経営が追い込まれないため」に、順調な時に早めに手を打ち、将来の柱を作っておくべきです。

 

経営が順調な時に新規事業にチャレンジする、赤字部門のテコ入れをする、など事業ポートフォリオを見直す。順調ではない時、事業が一つしかない時は、何とか、是が非でも生き抜いて、その後に次の戦略を決めていく。これが経営の鉄板です。

経営者目線で考える、「キャリアの多角化」のススメ

今回のコラムは経営者の目線での言及が多かったですが、会計士や会計士を目指す方、税務や経理に携わる方、あらゆる読者にもつながる話ではないでしょうか。

つまりは、自分自身を「経営」できているかどうか。

少子高齢化によるマーケットの縮小、AIによって失われると言われている仕事、未来を語る好材料はなかなか見つかりません。その中で生き抜いていくには、スキルや経験、人脈などビジネスシーンにおける強みを多角化させる必要があるかもしれませんね。副業による“収益のマルチチャネル化”もひとつの解です。

このコラムが未来のキャリアを考えるきっかけとなれば幸いです。

 

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著者: 中村亨

日本クレアス税理士法人|株式会社コーポレート・アドバイザーズ代表/ 公認会計士・税理士

富山県出身、大阪府立北野高等学校卒業。早稲田大学政治経済学部卒業後、公認会計士第二次試験合格・監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)入所。2002年中村公認会計士事務所設立。後に「日本クレアス税理士法人」「日本クレアス社会保険労務士法人」「株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A」「株式会社コーポレート・アドバイザーズアカウンティング」へ組織再編。株式会社エムアウト(取締役)、日本ファイナンシャルアカデミー株式会社(監査役)など兼務。趣味はゴルフ。

■日本クレアス税理士法人
https://j-creas.com/

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