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会計士 中村亨の「経営の羅針盤」第3回-大廃業時代のススメ「事業や戦略の再構築①」

日本クレアス税理士法人/株式会社コーポレート・アドバイザーズ代表の中村亨です。経営者として、また会計士としての日ごろの経験から、皆さんのビジネスやキャリアのヒントとなるようなトピックスをカジュアルにお伝えしていきます。今回のコラムでは不況をチャンスととらえて事業や戦略の構築に挑む際のポイントについて考えてみましょう。

皆さん、こんにちは。まずは与太話にお付き合いください。

元号が令和に変わり、明るく前向きな気持ちになった、と思ったら突然のコロナ禍。あらゆる産業が壊滅的なダメージを負いつつある「コロナ不況」待ったなしの現状です。

そういえば、私が20代の頃に「元号が変わると不況になる」という話を昔の上司から聞いたことがあります。平成不況、昭和恐慌、というのがありました。学生時代はバブルの時代でしたが、社会人になってから(会計士になってから)の20代は、まさに「平成不況」でした(住専問題に象徴される不良債権問題、山一証券倒産に象徴される金融不安、タイバーツ下落を端緒とするアジア通貨危機なんかが起こり、日経平均は毎年毎年、そして何度も何度も「年初来安値」を更新していました)。思い起こせば、暗い時代だったのもしれません、ちょうど1990年代は。(平成元年は1989年ですね)。この平成の時代のキーワードは「リストラ」でしたね。

昭和恐慌というのは、もちろん私は生まれていませんが…。大蔵大臣の失言をきっかけに全国で取り付け騒ぎが発生し、恐慌にまで発展したのが、昭和2年(1927年)の金融恐慌。それだけではなく、昭和4年(1929年)にはニューヨークのウォール街で起こった株価の大暴落(いわゆる“暗黒の木曜日”として知られるものですね)に端を発する世界恐慌に巻き込まれました。

昭和恐慌から90年以上も経ちますが、相場を取引する方々の間では暗黒の木曜日が起こった日である10月24日は縁起が悪い日としていまだに忌諱されているようです。負の記憶は、時代が変わっても連綿と受け継がれていくものなのですね…。

さて、与太話は終わらせて、本題へ。

前々回のコラムで「不況をチャンスととらえて事業や戦略の構築に挑むべき」というとことを書いたところ「具体的にどうすればいいんだ?」との質問を数名の方からいただきました。

今回は、例えばこういう方法がある、ということで例を挙げさせていただきます。中小企業、中堅企業の経営者やそこにかかわる会計士や税理士の方々(職業会計人の方々)の参考になればと思います。

続けさえすれば「残存者利益」が見える

まず、大前提として、会社を継続させることが大事です。特に50代、60代前半の社長さんは会社をとにかく続けることが大事です、何があっても。

世間ではこれからは「大廃業の時代」だといわれています。そもそも後継者不足の時代、さらには人手不足。また人口減少で需要減少、そこにコロナ不況がやってきたわけですから、明るい話題はないように見えますが、逆に言えば、「ライバルもいなくなる」ということです。

そう、続けさえすれば特別なことをしなくても周囲のライバルが倒れていき、生き残れる。つまり「残存者利益」が確保でき、「勝ち組」になれるかもしれない、ということです。

では、そのためのほんの少しの差別化のポイントを考えてみましょう。

事業や戦略を再構築する、といってもできることから始めていく、というのが中小企業にとっては現実的かと思います。そのための二つのポイントをご紹介します。

ドラッグストアの「決め球」にみる戦略

一つ目は「粗利を高くする」ということが重要かと考えています。「そう簡単にできるか?」との声が聞こえそうですが、むしろ、難しく考えないことがコツです。「粗利を高くする」ということは要するに付加価値を高くする、ということです。

ビジネスの業種や形態にもよりますが、まず「モノ売り」だけではドンドン付加価値が下がります。なぜならこのインターネットの時代では、プラットフォームを支配していない限り、世界がグローバル化されて経済がつながることを前提にするとすれば、安い人件費を抱える国で作ったものがドンドン安いものを作る、つまり、モノ自体はデフレ化が避けられない、というのが大方の見立てです。

そうすると、「商品やサービスの組み合わせ」で付加価値を上げる、つまりクロスファンクショナルにサービスを考える、ということが大事になります。それによりオリジナリティー(強みと考えていただいていいと思います)が発揮され、値段を下げず、むしろ上げることができる、ということです。

身近な例ですとドラッグストアでしょうか。高齢化社会を背景に健康相談ができる、つまり、いわゆる「コンサルティング営業」ができることが強みです。さらに食品、日用品等を安く売ることで「見せ球」として使い(お客さんをたくさん引き寄せるために)、クスリや化粧品を「決め球」として使う、ということです。

結果、近隣のスーパーマーケットから粗利を上げながらシェアを奪うことに成功しています。最近では、コンビニよりもドラッグストアのほうが「生活インフラ」としての機能が高いのでは?と思うときさえあります。

「選択と集中」と「多角化」のどちらを取るか?

二つ目は「収益のマルチチャネル化」を進めるのがよいと思います。財布をたくさん持つということで、要するに「多角化」するということです。これには、異論が出ることは覚悟の上です。最近の経営に関する本や大企業の戦略は、どちらかといえば「選択と集中」、つまり「多角化」の逆に向かっているといわれているからです。

しかし、中小企業が一つの事業だけで成長できる場合は、それはそれでいいのですが、大半の中小企業は中小企業のままでしょうから、それでも生き残って多少なりとも成長するためには「多角化」がおすすめですよという意味でお読みください。

「選択と集中」と「多角化」という話になりますと、話は長くなるのですが、少しだけ解説させていただきます。日本の大企業の経営論や手法のほとんどがアメリカから輸入されるものですから、まずはこの2国間の考えの違いが反映されていると考えても整理しやすいかと思います。もともと日本は多角化が好きな国、アメリカは選択と集中が好きな国、ということで下記の表を見てください。

日本では、企業は人々の共同体でありそれを存続させることが経営者の責任である、と考えられていますが、アメリカでは企業は投資家が利益を得るための用具に過ぎず、その価値がなくなれば市場から退場したほうがよいと考えられています。前者は「企業制度説」、後者は「企業用具説」と呼ばれたりします。

企業制度説に従っている日本の経営者は、企業の存続を重視します。経営の安定化を重視した結果「多角化」の戦略を取る傾向にあります。一方アメリカでは、存在意義を失いかけた企業を存続させるのは無駄な努力であるとして、企業の成長のために「選択と集中」の戦略を取ります。

写真フィルムの最大手だったアメリカのコダック社を例に挙げます。2012年に日本でいう会社更生法にあたる法律の適用を申請し、実質的に破綻しました。デジタル技術の進歩で、写真フィルムの需要が激減する中で、アメリカの投資化が事業の多角化に否定的であった結果と言われていますが、同じく写真フィルムの最大手であった日本の富士フイルムはどうか。複写機・電子部品・デジタルカメラなどもともと事業の多角化を図っており(最近では化粧品分野にも進出していますね)、現在も日本を代表する企業の一つとして2兆円を超える収益を上げています。

さて、中小企業でどうやって多角化するか?ということに話を絞りますね。一言でいえば、「隣地を攻める」ということに尽きるかと思います。

総資産11兆円まで事業を増やした「隣の青い芝生」

ここで、まさに隣地を攻めながら拡大したオリックスの事業戦略について触れておきます。企業向けの機械設備リースに始まり、自動車・船舶・航空機のリース、生命保険、銀行、不動産開発、温泉旅館やゴルフ場・介護施設の運営…事業領域は今やリースを超え大きく広がり、連結で総資産は11兆円にもなっています。

着目すべきはその拡大戦略です。「新たな事業に乗り出す際には、既存事業に隣接する領域に少しずつ進出する」という方法を採ってきました。機械設備のリースを手がけるうちに、社用車のニーズが増え、すると車検や自動車保険の要望も出てきたためそれらを加えたメンテナンスリースを開始。さらに、自動車リースを数多く扱ううちに出張先での短期レンタカー需要を知り、米企業とのライセンス契約でレンタカー事業を始めました。

隣地を攻める戦略でリースから金融分野、事業サービス分野にまで幅を広げてきたこの多様な事業ポートフォリオは、危機への対応としても役立つこととなります。リーマンショックで世界の資本市場が機能不全に陥った際も、「資金調達で苦戦を強いられ不況の大波に翻弄されたものの沈没することがなかったのは事業ポートフォリオのバランスがとれていたから」と当時の取締役 兼 代表執行役会長・グループCEO 宮内義彦さんは述べています。

まさに「隣の芝生は青い」ですね。

さて、多角化については経営学のアプローチでまだまだお話ししたいことがありますが、誌面が尽きてしまいました。次回のコラムでは、古典的な多角化戦略を深掘りしたいと思います。

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著者: 中村亨

日本クレアス税理士法人|株式会社コーポレート・アドバイザーズ代表/ 公認会計士・税理士

富山県出身、大阪府立北野高等学校卒業。早稲田大学政治経済学部卒業後、公認会計士第二次試験合格・監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)入所。2002年中村公認会計士事務所設立。後に「日本クレアス税理士法人」「日本クレアス社会保険労務士法人」「株式会社コーポレート・アドバイザーズM&A」「株式会社コーポレート・アドバイザーズアカウンティング」へ組織再編。株式会社エムアウト(取締役)、日本ファイナンシャルアカデミー株式会社(監査役)など兼務。趣味はゴルフ。

■日本クレアス税理士法人
https://j-creas.com/

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