非営利法人の会計と制度その1として、①非営利法人の分野全体における監査の種類・法定監査の法人数・監査報酬(年間)平均額、②最近の制度改正と今後の動向、③法人類型別の会計基準の特徴と改正の動向をお伝えしました。そして、その2として①学校法人の制度改正と今後の動向、②学校法人の会計について解説しました。今回は、非営利法人の会計と制度その3として、①公益法人の制度について、少し詳しくお伝えします。

1. 公益法人の制度改革について
公益法人制度は、1896年(明治29年)の民法制定により始まりました。この制度により、民法上の社団法人と財団法人が民間非営利法人として国民経済の公益活動を100年以上担ってまいりました。しかしながら、100年以上も経つと社会経済環境も変化したこと、また一部の公益法人による社会的不祥事が発生したことなどから制度的な課題が生じておりました。そこで、2000年12月に閣議決定された「行政改革大綱」策定以降、様々な議論を経たうえで公益法人の制度改革が決定し、いわゆる公益法人制度改革関連3法が2006年(平成18年)に成立したのです。この法律は2008年(平成20年)12月に施行されました。それまでの旧民法上の公益法人は特例民法法人となり、新たな制度の公益法人(一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人または公益財団法人)に移行することになりました。また、この法律の施行後、新たに公益法人を設立する場合には、一般法人(一般社団法人または一般財団法人)を設立したうえで、公益認定を受けて公益社団法人または公益財団法人となることになります。公益法人は、広義には一般法人(一般社団法人または一般財団法人)を含んだ用語ですが、狭義には公益認定を受けた法人(公益社団法人または公益財団法人)をいいます。一般法人は必ずしも公益認定を受ける義務はありません。
2. 公益法人の機関設計について
社団はヒトの集まりといわれ、社員が法人を構成します。一方、財団はモノの集まりといわれ、法人を構成する社員が存在しません。社団法人では、社員総会にて、法人の重要事項が決定されるのに対して、財団法人では評議員会が法人の重要事項を決定します。それぞれの機関設計は次の通りになります。
【社団法人の機関設計】
(1)一般社団法人の場合は、次の①~⑤の選択が可能
①社員総会、理事
②社員総会、理事、監事
③社員総会、理事、監事、会計監査人
④社員総会、理事、理事会、監事
⑤社員総会、理事、理事会、監事、会計監査人
(2)公益社団法人の場合は、上記④または⑤の選択が必要
【財団法人の機関設計】
一般財団法人と公益財団法人は、次の①または②の選択が必要
①評議員、評議員会、理事、理事会、監事
②評議員、評議員会、理事、理事会、監事、会計監査人
3. 一般社団法人と一般財団法人の制度的特徴について
新制度では主務官庁による許可制が廃止され、一般法人は、一定の要件を満たせば登記によって設立が可能となりました(準則主義)。この要件も、一般財団法人は拠出金300万円が存在すればよく、また一般社団法人は社員2名以上が存在すればよいなど容易な要件となっています。
また、一般法人は、法人税法上、①非営利型法人と②それ以外の法人に分類されます。①の場合は法人税法上の収益事業が課税対象となりますが、②の場合は全ての事業が課税対象になります。
なお、特例民法法人から一般法人に移行した法人(=移行法人)は、移行前の純資産の金額を公益目的事業で費消するよう、公益目的支出計画を行政庁に提出し、移行の認可を受けることが必要になります。その後は、当該計画が終了するまで、決算後3カ月以内に報告書を行政庁に提出することが必要になります。簡単に言えば、旧制度の下で税制優遇を受けて内部留保した利益に相当する金額については、一般法人へ移行後も公益目的の事業に費消しなさい、ということです。これに対して、新設の一般法人は当然に旧制度の税制優遇が適用されていませんので、公益目的支出計画の認可が不要となります。
4. 公益社団法人と公益財団法人の制度的特徴について
公益社団法人・公益財団法人は、公益認定された一般社団法人・一般財団法人です。公益認定されるためには、①公益目的事業支出が全支出の50%超であること、②収支が相償であること、③遊休財産が一定限度内であることなどの要件を満たすことが必要になります。公益目的事業は、公益法人認定法に列挙された事業に該当し、かつ不特定多数の者の利益の増進に寄与することが必要になります。
公益認定された事業は、それが法人税法上の収益事業に該当する場合であっても、非課税となるなどの税制優遇措置が講じられます。一方、公益社団法人・公益財団法人であっても、公益目的事業以外の事業は法人税の課税対象となります。ただし、公益社団法人・公益財団法人には「みなし寄附」という制度が設けられており、これによって、収益事業で得た利益を法人内の公益目的事業に非課税で利用することが可能となります。
なお、公益認定は行政庁(内閣総理大臣または都道府県知事)から諮問を受けた合議制の合議体が行います。そして、公益認定後は、決算後3カ月以内に所定の報告書を行政庁に提出する義務があるとともに、定期的な立入検査を受けることになります。
5. 制度改正の今後の動向について
公益法人については、2019年6月に公表された自由民主党行政改革推進本部「公益法人等のガバナンス改革検討チームの提言とりまとめ」を受けて、2019年12月から2020年12月まで、内閣府のもとで「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」が開始されています。そこでの基本的な論点は次の通りです。
①評議員・社員のあり方
役員等に対する社員総会や評議員会の監督・牽制機能の実効性を高める方策
②役員のあり方
理事会や監事の監督・監査機能の実効性を高める方策
③外部監査体制の徹底
外部監査の実効性を高める方策
④ガバナンスの自律性と透明性の確保
- 公益法人等による情報開示については、国民によるガバナンスの実効性を高める方策
- ガバナンスの自律性と透明性を確保するための、公益法人自身による取組み
⑤その他
法人の解散時等に、残余財産の帰属先等について行政庁が関与する仕組み
以上の論点について、今後どのような改正がなされるのか現時点では未確定でありますが、ガバナンス改革に向けた主要な論点・課題を見て取ることができます。制度が変更される時、そこには様々な専門家が関与する機会が生じますので、その動向を注視することが有用であると思います。
次回は、公益法人の会計について、その特徴などを詳しくお伝えします。
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