泡盛「残波(ざんぱ)」で知られる沖縄県の酒造会社「比嘉酒造」が、国税当局の約1億8千万円の課税処分の取り消しを求めた訴訟で、東京地裁は4月22日、総額約19億円の役員報酬のうち、創業者に対する約6億7千万円の退職慰労金は妥当と認め、約5千万円分の課税を取り消す、同社側一部勝訴の判決を言い渡した。 今回の裁判では、役員退職金をめぐり、興味深い判決となっており、税理士等の専門家の間では関心を呼んでいる。

役員退職金の妥当性をめぐる企業と税務署のトラブルは後を絶たない。「高すぎる」として損金算入を否認する税務署と、「民間給与に税務署が口を挟むな」と支給額の妥当性を主張する企業。「適正額」は企業や役員の事情、また見る角度によっても違ってくるだけに不滅のテーマだ。
そんな役員退職金をめぐり争われていた裁判で、最近、興味深い判決が下された。争っていたのは、泡盛「残波(ざんぱ)」で知られる酒造会社「比嘉酒造」。そして舞台となったのは、沖縄から遠く離れた東京地裁だ。
近隣の同業他社と比較するな!
判決などによると、比嘉酒造は2010年2月期までの4年間で、役員4人に役員給与計12億7千万円、創業者に退職金6億7千万円を支払い、それぞれ税務上の損金に算入して申告した。
沖縄国税事務所は、これらの役員給与および役員退職金について、近隣の同業他社と比べて「高すぎる」と判断。同社が支払った総額19億4千万円のうち、約6億円分を「不相当に高額」として追徴課税を行った。法人税法では、役員給与(退職金含む)のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入としている(34条2項)。
これに対し同社は、「近隣の同業他社との比較は『残波』を全国的にヒットさせた経営者の努力を評価しない方法で違法」と反論。役員給与および退職給与はいずれも適正であったとして、課税処分の取り消しを求めて裁判に踏み切った。
争点となったのは、役員給与および退職給与に「不相当に高額な部分の金額」があったか。
東京地裁は、国税側が比較対象とした「近隣の同業他社」の抽出方法は合理的だったと認めた上で、役員給与については同業他社と比べて「不相当に高額」とし、課税は適法と判断。一方、創業者の退職金については「不相当に高額ではない」として課税を取り消した。舘内比佐志裁判長は「創業者は経営や成長への貢献があり、同業社と比較しても退職金が高すぎるとはいえない」とした。
「高すぎる」の基準は…?
この判決で注目されるのは、役員退職金が「高すぎるかどうか」の判断基準だ。
沖縄国税事務所は当初課税において、沖縄県と熊本国税局管内(熊本、大分、宮崎、鹿児島)で、総売上金額が同社の2分の1以上2倍以下(倍半基準)となる酒造会社約30社を抽出。これらの役員給与の最高額と比較し、その超える部分を「不相当に高額」と判断した。
これに対し比嘉酒造側は、比較する同業他社の抽出エリアを近隣ではなく全国に広げるべき、抽出に際して倍半基準を外すべきなどと主張したが、この同業他社の抽出方法については判決も「合理的」と認めている。比較対象が同じであるのに当初課税と判決で判断が分かれたのは、役員退職金の計算で加味される勤続年数が変わったことによるものだ。
役員退職金の算定方法としては、一般的に功績倍率法が使われている。
【功績倍率法】 役員退職金=最終月額報酬×勤続年数×功績倍率
比嘉酒造は当初、役員退職金を「最終月額報酬×勤続年数15年×功績倍率3」で計算していた。「15年」は代表取締役としての勤続年数。国税当局も、この勤続年数と功績倍率については問題視していなかった。「不相当に高額」となったのは、国税当局が役員退職金の適正額の計算にあたり「最終月額報酬」に入れ込んだ「同業者社の役員給与の最高額」の数字によるものだ。
そこで比嘉酒造側は、功績倍率法の「勤続年数」を、取締役期間も含めた「24年」で計算すべきと主張した。国税側も勤続年数を「24年」とすることには異論はなく、その代わり「最終月額報酬」を同業他社の「平均額」にすべきと主張した。勤続年数が増えても、平均額とすることで適正額の跳ね上がりを抑えられる。