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富裕層狙う投資 「レセプト債」を徹底検証

投資商品の一つである「レセプト債」(診療報酬債権)は、国民皆保険制度を誇る日本においては手堅い投資先ともいえるのだが、運用会社がテキトーだととんでもない損害を被ることになる。先日、レセプト債を発行していたファンドが破綻し個人投資家に損失が生じた問題で、ファンド運営会社の元社長らが金融商品取引法違反容疑で逮捕された。ファンド破綻により投資家に大きな損失を負わせたレセプト債の実態と現状を探る。

貯蓄から投資へ——。眠っている個人資産を流動化させて経済活性化につなげようと政府がここ数年しつこく煽っているが、投資に不慣れなビギナーは十分に注意が必要。一口に「投資」といっても中には怪しい商品が紛れていることがあるからだ。いま社会問題となっている「レセプト債」もそのひとつ。国民皆保険制度を誇る日本ではレセプト債自体は手堅い投資先ともいえそうだが、運用会社がテキトーだったりするととんでもない損害を被ることになる。先日、レセプト債を発行していたファンドが破綻し個人投資家に損失が生じた問題で、ファンド運営会社の元社長らが金融商品取引法違反容疑で逮捕された。

「レセプト債」ってナニ?

レセプト債とは、診療報酬債権を証券化した金融商品のこと。国民皆保険体制が確立している日本では、誰もが何らかの医療保険に加入しており、医療費負担は原則3割。残額は医療機関が健康保険組合等に請求するのだが、診療報酬の請求手続きは煩雑な上、実際に支払われるまでに約2カ月のタイムラグがある。このタイムラグに着目して生まれたのがレセプト債だ。

運用会社は、病院からこの診療報酬債権を少し安く買い取り、回収した診療報酬との差額を利益とする。投資家には出資金に応じて配当。主な「仕入れ先」は資金繰りに窮する病院で、診療報酬債権を額面より安く手放しても、すぐに現金化できるというメリットがある。日本の堅い医療保険制度下においては、病院、運用会社、投資家にとって三方良しのスキームのようにも見える。

ところが2015年11月以降、レセプト債を発行していたファンドとその運営会社が次々に破綻。販売していた証券会社が加担していたことも明らかとなり、社会問題にまで発展した。いったいレセプト債の何が問題だったのだろうか。

ファンド破綻で投資家は…

証券等監視委員会によると、ファンドの運営会社「オプティファクター」(東京、破産手続中)は、2004年から2010年にかけてレセプト債の発行会社(ファンド)3社を国内外に設立。このファンド3社が診療報酬債権を買い取り、それを裏付資産にするとして「レセプト債」を発行、資金を調達していた。本件レセプト債の発行残高は、全国合計で約227億円、投資者数は約2470人(2015年10月末時点)にのぼる。

また、アーツ証券(東京、破産手続中)もこのレセプト債を顧客に販売するとともに、ファンド3社からの委託により竹松証券、田原証券、六和証券、上光証券、共和証券、おきなわ証券の6社にレセプト債を紹介し、販売支援を行っていた。これによりアーツ証券はファンド3社から販売手数料等を受け取っていた。

こうした中、2015年11月、オプティ社とファンド3社が「資産の合計が債券発行残高に比べて明らかに僅少であることが判明した」等として東京地裁に破産手続開始の申立てを行い、破産手続開始決定を受けた。
投資家にとってはまさに青天の霹靂(へきれき)「ここから全国に被害者の会が発足し、オプティ社、ファンド3社、証券会社に損害賠償を求める動きが加速した。

ずさん運営で被害拡大

証券取引等監視委員会が本件レセプト債の実態を検証したところ、①ファンド3社はいずれも社債発行の初期段階から、買い取った診療報酬債権の残高が社債発行残高に比して著しく僅少であったこと、②早いところでは2005年から、社債発行によって調達した資金が診療報酬債権の買取り以外にオプティ社やその関連会社の資金等に流用され、毀損されていったこと、③その結果、レセプト債の新規発行を行わなければ既発行社債の償還や利払いが困難な33自転車操業の状態であったこと―などの事実が判明。

またアーツ証券は、遅くとも2013年10月頃までにオプティ社からファンド3社の財務状況に関する相談を受けるなどしてレセプト債の実態について認識していたにもかかわらず、これを意図的に秘匿・隠蔽したまま、レセプト債を「安全性の高い商品」であると説明して販売を継続していたという。

証券取引等監視委員会は、アーツ証券についても行政処分を行うよう金融庁に勧告。これを受けて金融庁は2016年1月、アーツ証券に対して金融機関としては最も重い登録取消処分を行い、同社は破産した。また同社から依頼されてレセプト債の委託販売をしていた証券会社6社にも業務改善命令が下されている。
レセプト債事件の黒幕5社が破綻したことで、投資家の多くは、配当金はおろか元本の回収さえも危うい状況となってしまった。

被害総額200億円超!救済の可能性は…

レセプト債をめぐる運用会社と販売会社のずさんな経営実態が明らかになるにつれ、被害に気づいた投資家が一人、また一人と声を上げ、全国各地で被害者の会が発足。東京、名古屋、金沢、沖縄等で弁護団が結成され、オプティ社やアーツ証券、販売代行していたした証券会社らに対して損害賠償責任を求める集団訴訟を起こしている。しかし、被害総額は推定200億円超と巨額な上、主軸となったオプティ社やアーツ証券はすでに破綻しているため、全額償還は極めて厳しいとの見方が強い。このため関係各社の役員など「個人」への責任追求も行われているところ。

こうした中、さきごろオプティ社とアーツ証券の元社長らが金融商品取締法違反の疑いで千葉地検に逮捕された。ファンドが債務超過状態であるのを知りながらその事実を隠し、関係証券会社にウソの運用実績報告書を交付して、その情報をもとに「安全性の高い商品」と虚偽の説明をさせるなどした疑い。

今回の逮捕は、個人への責任追求が本格化する中でひとつのターニングポイントともいえそうだが、被害者救済という意味では小さな第一歩に過ぎない。オプティ社、アーツ証券の役員をはじめ関係者への損害賠償を求め争っているレセプト債被害弁護団(東京)の荒井哲朗弁護士は、「今後の適切な捜査と公判等を通じて事案の実態が明らかになる事に期待したい」と話す。今後の裁判の行方に注目が集まる。

著者: 河添美羽

税金ライター/熱狂的トラファン

元税金専門紙編集長、現在は税金ライターとして活動。財務省・国税庁にネットワークを持ち、税金問題に独自の目線で切り込む一方で、経済・生活ニュースなど幅広く執筆する。プロ野球は、阪神タイガーズをこよなく愛し、シリーズが始まれば、ほぼ阪神応援に駆け回る。

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