初めての司法判断
これに対し東京地裁は、創業者の会社に対する貢献の大きさを考慮すると、同業者社の「平均額」との比較は馴染まないとし、「同業他社の最高額を超えない限りは不相当に高額な部分があるとはいえない」と判断した。
「最高額」が採用されたことで、創業者の退職金と比較する「適正額」の計算式は、
同業他社の最高額(最終月額報酬)×勤続年数24年×功績倍率3 となる。
結果、役員退職金の適正額は跳ね上がり、創業者の退職金はこの範囲内に収まったため「不相当に高額な部分はない」とされた。
「24年」を受け入れつつ「平均額」で均した国税側は〝読み〟を誤った格好となった。
役員退職金への課税をめぐる争いで、裁判所が「功績倍率」について判断するケースはよくあるが、比較法人の役員給与の金額の取り方について判断するケースはめずらしい。
役員退職金が「高すぎるかどうか」については、同業他社の「平均額」との比較で判断されるケースが多い。しかし平均額との比較となると、突出した金額は均されてしまい、否認対象となる「不相当に高額な部分」が増える。個々の特殊事情を勘案して「最高額」と比較されるケースもあるが、司法判断として「最高額」との比較が相当であるとしたのは本件が初めてとなる。
この点、比嘉酒造側代理人の田代浩誠弁護士は「基本枠組みの中で裁判所は頑張ってくれたと思うが、役員報酬に関して主張が認められなかったのは遺憾。類似法人抽出にあたっての倍半基準が外せなかったのも残念」とコメントしている。
〈番外編〉審判所は分掌変更を問題視
役員退職金の「適正金額」が問題となる中、その算定方法のヒントが詰まった今回の判決に関心が寄せられているが、よく見ると裁判に至る前の国税不服審判所でも興味深い判断が下されている。
創業者への退職金は、実際の退職ではなく、分掌変更によるものだった。代表取締役から取締役に変更したことにともない「退職慰労金」が支払われた。
税務上、分掌変更によりその役員としての地位や職務内容が激変し、実質的には退職したと同様の事情にあると認められる場合には、その支払われた金額は退職給与として取り扱うことができる。そして「激変」の内容については、「給与がおおむね50%以上減少したこと」とする目安が示されている(法人税基本通達9−2—32)。
比嘉酒造の創業者の場合、給与は3分の1に減額され、職務内容も経営に関与していなかったことから、同社は「退職したと同様の事情にあると認められるもの」と判断し、退職給与として処理。この点については原処分庁である沖縄国税事務所も異論はなかった。
しかし審判所は、
①分掌変更後も製造の技術的な指導を行っている、
②審判所職員と面談した際に受け取った名刺に「代表取締役」と表記されていた、
③同社が銀行から3億円の借り入れをする際、行員との面接に立ち会った
—などの事実を総合勘案して、分掌変更後も会社に不可欠な業務を行い、影響力があると判断。「退職したと同様の事情があるとは認められない」として、退職金ではなく損金に算入できない役員給与にあたるとし、「不当に高額」かどうかを判断するまでもないとした。
この審判所の判断は裁判ではスルーされているものの、役員退職金をめぐる一連の争いからは、「適正金額」の算定方法の難しさだけでなく、分掌変更にともなう「退職金」の危うさも垣間見える。
この点、法人税畑で活躍した国税OB税理士は、「最終月額報酬が妥当な金額であるということが証明できるようにしておく必要がある」とした上で、「分掌変更に際して給与を下げるだけではダメ。実態が伴っていないと否認される可能性はある。オーナー企業はとくに注意する必要がある」と注意を促している。




