前回は請求書の実務についてご説明しました。今回は、会計入力の際に迷うことの多い、人件費の原価振替方法について解説します。

人件費は原価?販管費?
会計入力を行う際、人件費は売上原価なのか販管費なのか、迷うときがありますよね。売上原価と販管費は下記のように定義されています。
売上原価:売れた商品の仕入れや製造にかかった費用
販管費:商品や製品を販売するために直接かかる費用ならびに一般管理費
企業は、製造担当の従業員、セールス担当の従業員、経理担当の従業員など、幅広いポジション従業員を抱えています。会計処理上、彼らの人件費を売上原価と販管費どちらに計上したらいいのでしょうか?
答えは、従業員の会社における役割によって売上原価、販管費に分けていきます。
先ほど、例に出した3ポジションの従業員について見ていきましょう。はじめに、製造担当の従業員。これは売上に紐づく製造原価となりますので、売上原価となります。次に、セールス担当の従業員ですが、こちらは商品を販売するためにかかる費用となるので、販管費として処理します。また、経理担当は収益を生まない管理部門として一般管理費区分に含まれ、販管費となります。
よって、従業員ごとに原価対象か、販管費対象かを判別します。さらに原価対象の従業員でも、営業訪問に同行している時間などは原価対象となりません。月の工数管理を行い、製造作業を行っていたと認められる時間を原価計上するかたちになります。
なお、人件費の原価振替は、税務上は必要とされておらず、企業会計上、求められる処理となります。上場企業や上場準備企業では、原価振替を行っていない会社も多いかと存じますが、問題ございません。
原価振替の方法
通常、給与計算結果の仕訳計上は伝票上に個別従業員の給与情報が残らないよう全員分の給与や法定福利費を合算した金額を一本で仕訳計上することが多いかと思います。
例:
給与手当(販管費)** 未払費用**
法定福利費(販管費)** 未払費用**
この総額のうち、原価対象部門の従業員をピックアップし、その中で原価対象の工数分の原価振替を行っていきます。原価振替の仕訳例は下記のとおりです。
例:
給与手当(売上原価)** 給与手当(販管費)**
法定福利費(売上原価)** 法定福利費(販管費)**
原価対象の工数をピックアップするためには、従業員の工数管理が必須です。具体的には、下記のような工数表を従業員ごとに作成するかたちになります。

工数表については、エクセルで作成する方法のほか、工数管理機能が付いている勤怠ツールなどで集計を行うことができます。自社で工数管理のためのツールを開発している企業もあるでしょう。なお、あまりに細かい工数管理を従業員に要求すると、本業が疎かになったり、事務工数に増加に伴うハレーションが生まれたりすることがあるため注意しましょう。
さて、従業員Aさんの工数のうち、87.5%が原価対象であると集計の結果わかりました。この87.5%を原価に振り替えるかたちになります。
従業員Aさんの給与手当が100万円、法定福利費が10万円とすると、下記金額について、原価振替を行います。
給与手当:100万円×87.5%=87.5万
法定福利費:10万円*87.5%=8.75万
実際、仕訳に落とし込んでみましょう。
①2020年8月 Aさん 給与計上時
給与手当(販管費)1,000,000 未払費用 1,000,000
法定福利費(販管費)100,000 未払費用 100,000
②2020年8月 Aさん 原価振替時
給与手当(売上原価)875,000 給与手当(販管費)875,000
法定福利費(売上原価)87,500 法定福利費(販管費)87,500
上記仕訳の結果、87.5%のコストが売上原価、残る12.5%のコストが販管費に計上されました。