現代アートの異端児バンクシー(Banksy)が2004年に製作した偽札「ダイフェイスド・テナー(Di-faced tenner)」は、本来エリザベス女王の顔が描かれているはずの10ポンド札に、ダイアナ元妃の顔が印刷されている作品ですが、大英博物館が所蔵することで話題となりました。当然、「ダイフェイスド・テナー(Di-faced tenner)」を貨幣として利用することはできないわけですが、今回は、貨幣とは何かについて、納税の観点から考えてみましょう。
商品貨幣論と信用貨幣論(MMT理論)
通貨の成り立ちや、通貨の定義に関して、主流派経済学者は「商品貨幣論」を採用しています。ざっくりといえば、原始的な社会における物々交換に貨幣の起源があるという考え方ですが、要するに物々交換の便利な交換手段として貨幣が使用されるようになったという見解です。
この過程の初期段階では、貨幣には金との交換による価値の保証、すなわち金による裏付けが必要とされるところ、最終的にはかかる保証も不要となり、交換の際に皆が受け取り続ける限り貨幣には価値があることとなり、その役割を果たすと考えることができるのです。
つまり、この主流派経済学の説が正しいとすると、貨幣の価値は、「みんなが貨幣としての価値があると信じ込んでいる」という大衆心理によって担保されていることになるわけです。
これに対して、「信用貨幣論」は、貨幣とは租税債務の解消手段であると解します。こちらも簡潔にいえば、次のようなステップで貨幣の成り立ちを説明します(中野剛志「MMTが、こんなにも『エリート』に嫌われる理由-主流派経済学の理想は『反民主的』な経済運営-」東洋経済オンライン2019年6月11日)。
1) 政府が、債務の計算尺度として通貨単位を法定する。
2) 政府が、国民に対して、その通貨単位で計算された納税義務を課す。
3) 政府は、通貨単位で価値を表示した「通貨」を発行し、これを租税の支払手段として定める。
4) これにより、通貨には、納税義務の解消手段としての需要が生じる。
5) 人々は、通貨に額面どおりの価値を認めるようになり、その通貨を、民間取引の支払や貯蓄などの手段としても利用するようになり、通貨が流通する。
要するに、人々がお札という単なる紙切れに通貨としての価値を見出すのは、その紙切れで税金が払えるからということです。
すなわち、信用貨幣論は、政府が発行した「借用証書」たる「貨幣」を政府に持っていくと、「租税債務」を解消してもらえることに着目します。このように、そもそもの前提として、「貨幣」とは、納税手段に使用する「借用証書」であるという考え方に立つ見解が、近時話題となっているMMT理論です。
MMT理論の妥当性を結論付けるのはまだ早急かと思われますが、仮に、この理論を前提とすると、偽造された信用証書は、納税ができないことから価値がないと判断されることになりましょう。