遺留分の生前対策③:生命保険の活用
予め現預金があるような場合は、生命保険を活用することが考えられます。自社株や事業用地等を承継させる相続人を受取人とする生命保険に加入することで、遺留分減殺請求権算定の基礎となる相続財産である預貯金が減少し、また、遺留分減殺請求権がなされた場合に保険金から価格賠償を行うことで自社株や事業用地が分散することを防止できます。
生命保険の活用についても、ご相談者の中には生命保険は相続財産に含まれると思っておられる方がいます。しかし、生命保険は、相続税法上は相続財産とみなされますが、民法上は特段の事情がないかぎり、相続財産から除外される相続人固有の財産となります。従って、生命保険金を活用することで遺留分の生前対策を行うことができます。
遺留分の生前対策④:経営承継円滑化法の利用
事業承継における遺留分の問題に関しては経営承継円滑化法を利用することが考えられます。相続人となる方が複数いる場合、遺留分減殺請求が行われることで後継者に自社株式を集中できず、事業承継の障害となります。そこで、中小企業の円滑な事業承継のために、遺留分に関する特例が経営承継円滑化法で定められています。
すなわち、中小企業において自社株式を生前贈与した場合、後継者を含めた推定相続人全員の合意があれば、当該株式は遺留分算定における財産から除外されます(除外合意)。また、除外合意まで得られない場合でも、推定相続人全員の合意があれば生前贈与された株式の評価額を合意時点の評価額とすることもできます(固定合意)。
経営承継円滑化法を利用するためには、①推定相続人全員の合意、②経営産業大臣の確認、③家庭裁判所の許可が必要となります。家庭裁判所の許可が必要となりますが、とくに基準が定められていない遺留分の事前放棄と異なり、推定相続人の合意が真意であるか否かが判断基準となります。
推定相続人の同意が必要なことや家庭裁判所の許可が必要なことは遺留分の生前放棄と同じですが、遺留分の生前放棄は各相続人が手続を行わなければならず負担が大きいこと、家庭裁判所の判断基準が明確でないことから許可・不許可の判断がバラバラになるおそれがあることから、推定相続人全員の同意を取得できる場合には経営承継円滑化法を利用するメリットがあります。
遺留分の生前対策⑤:種類株式や信託等の利用
高度な遺留分の生前対策として種類株式や信託等を利用することが考えられます。これは遺留分減殺請求をする可能性がある相続人に対して、自社株式等の相続財産を一部承継させるものの当該株式に基づく権利行使を防止する設計にするものです。
種類株式を利用する場合は、自社株式の一部を無議決権株式とした上で遺留分減殺請求をする可能性がある相続人に対しては無議決権株式を相続させることが考えられます。信託を利用する場合は、自社株式や不動産等について信託を設定した上で、これらの財産は受託者である相続人が実質的に管理するようにしておき、遺留分減殺請求をする可能性がある相続人に対しては、管理権限のない受益権のみを相続させることが考えられます。
これらの方法について、相続財産の内容や相続人の属性等に応じた設計が必要となりますので、具体的には専門家にご相談されることをお勧めいたします。
<遺留分の生前対策5つの手法>
1、まずは遺留分の生前放棄
2、養子縁組は遺留分対策にも活用できる。人数制限はなし。
3、生命保険は民法上は相続財産にならないので遺留分対策になる
4、経営承継円滑化法で遺留分の特例がある
5、遺留分の生前対策では種類株式や信託を利用することも