新型コロナウイルス感染拡大の影響は、中小企業を顧客に持つ会計事務所の台所事情にも影響が出始めている。こうしたなか、顧客からのニーズが高く、ドル箱ビジネスと見られているのが相続分野だ。この分野には、すでに専門特化した会計事務所がいくつもあり、関与する余地があまりないと思われがちだが、実はそうでもないのだ。

総務省「国勢調査」によれば、わが国の2015年の総人口(年齢不詳人口を除く)は1億2520万人で、「15歳から64歳」は7592万人、14歳以下に関しては、1982年から連続して減少が続いている。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(出生中位・死亡中位推計)によると、わが国の総人口は2030年には1億1662万人、2060年には8674万人まで減少すると見込まれており、「15歳から64歳」の生産年齢人口は2030年には6773万人、2060年には4418万人にまで減少することが見込まれている。

(図表) わが国の人口の推移

(出典)2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)、
2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)

こうした社会的状況から、高齢者向けビジネスは、会計事務所にとってもニーズが高いことが想像できる。特に分かりやすいのが相続税分野のビジネスだ。国税庁の発表によると、令和元事務年度(令和元年7月~令和2年6月末)の相続税申告件数は、11万5267件、1人当たり被相続人の課税価格は1億3694万円となっている。

相続税の申告件数は、年々増えており(表1参考)、課税割合も8~8.5%で推移しており、この傾向は今後も続くと予想されている。

(表1)

*国税庁資料をまとめたもの

1人当たりの被相続人の課税価格も1億3千万円~1億4千万円を推移しており、税額も1700万円から1800万円となっている。

相続に占める構成比が高い財産は、令和元事務年度は「土地」が34.4%、次いで「現金・預貯金等が33.7%、「有価証券」が15.2%」、「その他」が11.5%、「家屋」が5.2%の順となっている。

平成22事務年度以降、この構成比の傾向は変わっていないものの、「土地」の金額の構成比は減少する一方で、代わりに「現金・預貯金等」の金額の構成比が増加の傾向にある。

全国で、毎年これだけの相続税の申告があるのだから、新たなビジネス領域として入り込む余地は十分にあると思われる。

税理士は約7万8千人に上るが、会計事務所数は約3万件。このうち、積極的に相続税分野に乗り出している会計事務所はあまりないのが現状だ。

とはいうものの、都内やその近郊には、相続税専門の会計事務所が君臨しており、TVコマーシャルやインターネット広告などを目にする。そうした会計事務所では、年間で何千件も相続税の申告を行っており、一般の会計事務所が今更入り込む余地があまりないと思えてしまう。

たとえば、日本最大級の相続税申告件数を手掛ける某税理士法人は、2019年申告件数(ホームページ参考)を見てみると1660件、有料の相続コンサルティングが932件となっている。全相続税申告件数に占める割合においては、僅か1.4%に過ぎないのだ。これだけの相続税の申告を行っても、市場の2%も占有していないだけに、一般の会計事務所が入り込む余地は十分にある。

表2の通り、2030年には、わが国の総人口は1億2千万にきるものの、65歳以上は31%を占めることになる。2040年には、65歳以上が占める割合が35%を超え、そのうち70歳以上は約26%となる。