法人と違って個人事業者は業務とプライベートの境界線が曖昧になりがち。このため収入から差し引く必要経費には、税務署の厳しいチェックの目が注がれている。交際費や研究費、諸会費などは「叩けば埃の出る経費」としてマークされており調査で否認されることもしばしば。国税不服審判所の裁決からは、個人事業者にとっての交際費の敷居の高さが垣間見える。

家事関連費は原則必要経費にならない

個人事業者の交際費など、仕事とプライベートの両方にかかってくる費用は「家事関連費」とされ、原則として必要経費に算入することはできない。ただし、「家事関連費の主たる部分が事業所得等を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合」については、その業務遂行上必要な部分についてのみ必要経費に算入できることとされている。

ここでいう「必要である部分を明らかに区分する方法」はとくに示されていないため、業種や事業規模を総合勘案し、明細書、記録メモなど客観的な資料に基づいて申告することになるわけだが、交際費などは「事業の遂行上直接必要とはいえない」として根っこから否認されるケースが少なくない。典型的なケースが国税不服審判所の裁決にあるので見てみよう。

①歯科医師が支出した同窓会費 平成13年3月30日裁決

請求人は、K歯科大学同窓会の会費は、同会が開業歯科医師にとって業界情報収集の場あるいは交際の場であることから業務の遂行上必要な絶対不可欠の経費であるとして必要経費に算入したところ、税務署は同窓会の活動が請求人の業務に直接関係するものに限定されていると認めることはできないし、その会費が所得を生ずべき業務の遂行上直接必要な経費とは認められないとしてこれを否認。

国税不服審判所は、請求人が同窓会に参加することにより、業界の情報収集、歯周病専門医としての広報活動ができることや、同僚医師から手術等の必要な患者の紹介を受けることもあるということから、結果として請求人の歯科診療の業務に何らかの利益をもたらすであろうことはあり得るとしても、同窓会の活動目的からして、同窓生としての私的な立場で入会しているものと認めるのが相当であり、その会費について、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできないと判断した。

②歯科医師が支出した英会話研修費 平成13年3月30日裁決

請求人は、歯周病専門医、指導医また研究者として国際的に活動しており、アメリカ人講師を招請しての英会話研修による英会話能力の保持は、請求人の業務遂行のために必要不可欠なものであるとして、英会話研修費を業務の遂行上必要な必要経費に算入したところ税務署はこれを否認。

国税不服審判所の調査結果によれば、請求人が歯科診療業務、特に歯周病に関する治療を行う上で、英会話の技能を有することは有用であり、その意味で請求人の業務との関連があるといえるものの、英会話能力の保持のために継続して研修を受けることが歯科診療の業務の遂行上不可欠なものとまでは認められないし、平成8年から平成10年までの間、診療の上で英会話の能力を必要とする外国人患者の受診は平成9年の1名であり、外国人患者の来院や問い合わせにいつでも対応できるよう、長期に渡り継続して研修を受け、英会話能力を保持しておく必要があるということだけでは、請求人の歯科診療の業務の遂行上直接必要な費用とはいいがたいとし、英会話研修費が家事関連費であるとしても、その主たる部分が業務の遂行上必要であるともいえないし、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできないから、これを必要経費に算入することはできないと判断した。

これらの費用を必要経費に算入している事業者は少なくないだろう。少々厳しい判断であるようにも思えるが、税務署とのトラブルを避けるためにも、こうした費用は基本的には必要経費不算入であるものと認識した上で、業務上必要であることを説明できる客観的な資料を日頃から準備しておく必要がある。


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