マスコミ報道によると、東京国税局はこのほど、架空経費を計上するなどして約8400万円を脱税したとして、東京・中央区の不動産会社「マーベリッグパートナー」など2社と実質オーナーと思われる男性(44)を、法人税法違反の疑いで東京地検に告発したことが分かった。こうした不動産会社の脱税が減らない理由は何故か探った。

東京国税局は7月末、投資用マンションを販売する「マーベリッグインベストメント」など2社と実質的経営者の男性を、およそ8400万円の脱税容疑で刑事告発したという。報道によれば、不動産関連2社は2014年の11月までに、それぞれ2年から3年の間、合わせて3億1千万円の「架空業務委託費」等を計上していたということだが、考えてみればこのころは、不動産のミニバブルだった。

2012年12月16日に実施された、第46回衆議院選挙において大勝した自民党は、安倍晋三首相の下、「三本の矢」という経済政策を実施。
その中で第一の矢として2013年4月4日実施されたのが「異次元金融緩和」。この日銀の量的緩和が功を奏し、追加緩和含め2014年末までに1ドル当たり120円程度の円安、日経平均株価1万6千円近辺の株高を演出した。
実感なき経済回復と揶揄される中、2013年9月8日には東京にオリンピック招致も決定。そんな社会情勢の中で企業業績も上向き、雇用情勢も改善していた。

不動産などの高額商品に対し動きが出てきたのも同じころであり、消費税率の5%から8%に引き上げにともなう駆け込み需要もかなり影響した。またこの時期、密かにかつ大胆に投資用不動産として、台湾や香港などの資産家が日本の不動産を買い進めた時期でもある。

その当時の時代背景はザッとこんなものであるが、刑事告発された法人の一社は2014年11月期の売上が2012年同期比2.5倍である22億6千万円だったと報道にある。
経済回復かつ消費マインドが沸騰した場合、いつの時代でもまず買い向かわれるのが不動産だ。さらに2015年1月1日より相続税増税が予定されていたことも大きかったのではないかと推察できる。

日銀は異次元量的緩和で、市中に出回っている現金通貨と日銀当座勘定残高の合計を拡大し、ゼロ金利の状況で市場に更に資金を供給した。日銀の当座預金の残高に比例して、市中銀行は融資を拡大することができる。加えて融資金利も低下し、不動産業などは空前の好景気に沸いた。

刑事告発を受けた法人は、投資用マンションを販売していたようだが、脱税の手口は知人の複数業者との間に架空の業務委託契約を結び、各種コンサルタント業務を委託したかのごとく装って、架空経費を計上していたようである。
資金は一旦これらの業者へ流れたものの、ほぼ全額が短期借入金として刑事告発を受けた法人の預金口座にキックバックさせていたようだ。

依頼を受けた業者は、恐らく赤字法人でありかつ資金の抜き方としては代表者からの借入金の返済等として、抜いたお金を振り込んでいたのだろう。実に単純明快な資金の流れで、国税当局の調査手法としては、流れを解明するというより反面調査を実施して、業務を受託した側のコンサルタント業務の中身を詰めて行ったのではないかと考えられる。
丹念にかつ執拗な調査官の追及にあっては、気軽に安請け合いしたような業者などは簡単に真実を話してしまう。
相手先の一角でも崩れればあとは首謀者、今回は刑事告発を受けた社長のようであるが精神的に追い詰められ、不正のほぼ全貌を認めてしまうものだ。

もう少し手が込んでいれば、国内で決算期の違う数社で回したのちに戻してくるとか、或いは海外取引に紛れ込ませ、機材・資材の一部を格安に購入するだとかの形として戻したりする。移転価格税制も絡むので、海外取引を使う場合は大掛かりになる。思うに、今回の刑事告発を受けた代表は面倒くさかったのか、知識がなかったのか、あるい実に大胆だったかのいずれかであろう。

不動産業者の脱税が減らない理由、それは、最大の理由は儲かりすぎているからであり、大金が短期間のうちに動き、かつ実にさまざまな業者が入り乱れる業界だからである。そのため、業界自体は安易な気持ちで脱税に走り易いところがある。

筆者の経験でもこの業界での契約書の軽さ、いわゆる本来は印紙を貼った厳密な契約書がいじくり回されるという意味だが、他の業界と比べてこうした経営の基本部分が抜け落ちているケースが多い印象が残っている。