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出光・昭和シェルの合併から学ぶ 財団使った相続対策

出光興産と昭和シェル石油の合併をめぐり、出光興産の創業家と経営陣の対立が再度表面化している。この問題で公認会計士や税理士などの専門家が注目しているのが、出光興産の創業家が設立した「財団」。超富裕層の節税手法として、財団を活用するケースが多いのだが、事業譲渡した後の経営面でみると、株式の持たせ方によっては経営リスクになりかねないというのだ。

石油業界の大型再編が進行中だ。業界第2位の出光興産と第5位の昭和シェル石油、業界第1位のJXホールディングと第4位の東燃ゼネラル石油の、2陣営の合併作業が進められている。いずれも2017年4月に経営統合することになっているが、出光・昭和シェル陣営に暗雲が立ち込めている。出光の創業家が統合に強く異を唱えているからだ。

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出光のお家騒動はこれが初めてではない。純粋な創業家対経営陣の争いだったわけではないが、一族骨肉の争いを演じている。
2000年5月、有利子負債1兆7千億円を抱え倒産の危機に瀕したとき、再建を巡り社長派と会長派の一族同士が分裂して争った。会長だった出光昭介氏は創業者佐三氏の長男で、第5代社長を務めた本家直系のオーナー。社長だった昭氏は佐三氏末弟で2代目社長計介氏の次男で1989年から社長に就任していた。

社長派が勝利した結果、外部資本導入と株式上場が決定され出光興産は2006年10月、東京証券取引所第1部に上場された。推進者は、社長派の専務であった天坊昭彦氏。天坊氏は、後に第8代目社長を務めた後、会長、そして石油連盟の会長職にも就いている人物。出光興産では、中興の祖とも言われている。

カギ握る出光美術館と文化福祉財団所有の株式

今回の問題は、出光興産と昭和シェル石油の合併をめぐり、合併に反対の創業家と、年内には臨時株主総会を開き合併承認を目指す経営陣との争いだ。

「海賊と呼ばれた男」のモデルとされる創業者の出光佐三氏は、日章丸事件等で石油メジャーに挑戦した男として有名であり、特にイランとの関係が深かった。その長男である創業家トップ出光昭介氏は、昭和シェル石油の14.9%株主であるサウジアラムコに出光興産の株式が渡ることを企業体質の違いと、イランと敵対関係にあるサウジアラビアの国営企業ということで懸念していると言う。

昭介氏は、出光興産株式7.75%を持つ出光文化福祉財団と5%を持つ出光美術館の代表理事でもあり、自らの資産管理会社「日章興産」の持株16.9%を中心に約21%を保有しているとされる。
創業家側は、これらを合わせて「33.92%」の議決権を行使できると主張。この中に、8月3日に創業家が市場から取得した昭和シェル石油株式40万株が含まれているとされる。なぜこんなことをしたかといえば、金融商品取引法上TOB(公開市場買付)規程に抵触させるためだったようだ。

経営陣は、9月中ロイヤル・ダッチ・シェルから昭和シェル石油株式33.2%を取得する契約を結んでいた。創業家が取得した40万株を加えれば(出光興産の特別関係者に当たる為)発行株式数の3分の1を超える割合で取得する場合に該当し、TOBが必要というのだ。

超富裕層は財団設立で相続対策

ところで、筆者が気になるのは、この出光興産の株式を大量保有する両公益財団法人である。両財団とも今年3月末時点の評議員数は8人で、出光昭介氏の息子2人や元役員の他検事や外交官経験者がいるようだ。

通常個人が土地や建物などの資産を法人に寄附した場合は、寄付時の時価で譲渡があったものとみなされ、値上がり益に対して所得税が課される(所得税法第59条第1項第1号)。ただし、これらの資産を公益法人等に寄付した場合において、その寄付が教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税となる(租税特別措置法第40条)。そしてこの制度により、自社株式などを自ら設立した公益財団法人に寄付したオーナーの被相続財産は減り、相続税が減額される上社会貢献や安定株主対策も可能となるなど、一時非常に流行った節税手法だった。

なんと言っても、オーナー一族を巧みに理事等で潜り込ませ、何代にも渡って役員報酬と名誉を得る有効なものだった。しかし、近年の税制改正で国税庁長官の承認要件が厳格化され、承認には厳しい基準が適用されるようになって来た。

ちなみに、最新改正(平成26年4月1日)後の該当要件は以下の通りである。その前にこの制度の対象となるのは、公益社団法人・公益財団法人・特定一般法人・その他公益を目的として事業を行う法人であり、これには新たに公益法人を設立するための財産の提供も含める。

承認要件は3点あり、まず寄付が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与すること。
次に、寄付財産が寄付日から2年以内に寄付を受けた法人の公益を目的とする事業の用に直接供されること。
3点目は、寄付により寄付した人の所得税の負担を不当に減少させ、または寄附した人親族その他これらの人と特別な関係がある人の相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと。

最後の要件には具体的な判定基準が5つ設けられている。
①理事・監事・評議員のいずれにおいても親族関係がある人、及びこれらの人と特別な関係がある人の数の占める割合が3分の1以下。
②関係者に対して特別な利益供与が認められないこと。
③法人の解散時残余財産が国又は地方公共団体又はその他の公益法人に帰属すること。
④寄付を受けた法人に公益に反する事実が存在しないこと。
⑤法人が寄付によって特定の法人の株式を取得する場合、その総数の2分の1を超えてはならない。

昭和シェルの株式数減らしてTOB回避も検討

さて、現在、出光興産の経営陣は、莫大な費用が見込まれるTOBを避けるため、昭和シェル石油株式の取得数を減らす方向で協議しているという。一方で、9月3日、当該両公益財団法人の評議会が臨時開催され、全員一致で合併反対決議が採決されたとの報道があった。ますます合併承認を目指す経営陣には苦しい展開となった。

創業家出光昭介氏の昭和シェル石油株式40万を株式市場で調達するといった奇策に行動に代表される激しい抵抗は、果たして一般株主や従業員ひいてはステークスホルダー全員のことを考えてのものなのか。はたまた、創業家における特別決議拒否権保有を墨守するためだけのものなのか、もし出光佐三氏が存命ならこの創業家問題に対して何と言うのか極めて興味深い。

著者: 松本大路

税金ジャーナリスト/元税務調査官

税務調査官として約13年、都内の税務署などで法人税調査などを行う。その後、外資系生命保険会社の営業職員として約10年間、資産家及び法人、会計事務所向けに、役員退職プランや決算対策などをサポート。現在はフリーの税金ジャーナリストとして活動する。

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