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キーエンス創業者の長男が1500億円の申告漏れ メジャーな節税手法に暗雲

さきごろ、流量・圧力・レーザーセンサーなどの計測器大手キーエンス(大阪市・東淀川区)の創業者滝崎武光名誉会長(71)の長男が、贈与財産について1500億円の申告漏れを指摘されたとの報道があった。この節税手法、税理士業界ではメジャーになっているだけに、国税局がどこを指摘したのか、税の専門家の間では注目されている。

キーエンスの創業者、滝崎名誉会長の長男が大阪国税局の税務調査を受け、贈与された資産管理会社の株式をめぐり1500億円を超える申告漏れを指摘されたとされる。長男は、滝崎氏から贈与された非上場の一族の関連会社株式について、申告した株式評価が著しく低いと判断された模様。大阪国税局は、過少申告加算税を含め300億円超の追徴課税を行い、既に全額を納付したようである。

報道によれば、滝崎氏は、キーエンスの大株主となる資産管理会社「ティ・ティ社」を傘下に収める同族の非上場会社を、転換社債などを現物出資して設立。この会社の株式を長男に贈与した。

ティティ社は、キーエンス株式の17.87%を所有、それだけでも時価にすれば8千億円近くなる。大阪国税局は、この非上場の同族会社が、転換社債によって事実上支配するティティ社を通じ、大量のキーエンス株式を保有しているとみなしたと考えられる。

平成28年4月1日現在の法令等によれば、原則的評価方式の非上場株式の評価は以下の通りだ。
まず評価する株式を発行した会社を、総資産価額・従業員数・取引金額により、大会社、中会社、小会社に区分。大会社は原則、類似業種比準方式により評価し、類似業種の評価を基に一株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額(簿価)の3つで比準して評価する。
小会社は会社の総資産や負債を原則として相続税の評価に洗い替えて、その評価した総資産の価額から、負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する。中会社は、大会社と小会社の評価方法の併用である。

財産評価通達第8章その他の財産第2節197-5「転換社債型新株予約権付社債」、いわゆる転換社債(CB)の評価によれば、非上場の転換社債で転換社債の発行会社の株式の価額が転換価格を超えない場合、発行価額と源泉所得税相当額控除後の既経過利息の額の合計。
上記の例で「転換価格を超える場合」=「転換社債の発行会社の株式の価額」×「100/その転換社債の転換価格」となる。

これは推測の域を出ないが、大阪国税局は転換社債の評価ではなく、ティティ社株式転換後の支配従属関係に着目したのではないかとも思われる。その結果、財産評価通達第1章総則の6(この通達の定めにより難い場合の評価)で示される、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する」に則り評価されたのではないだろうか。

上記総則の6は、評価基本通達に定める評価方法を画一的に適用した場合には、適正な時価評価が求められず、その評価額が不適切なものとなり、著しく課税の公平を欠く場合も生じることから、それを補うものとして「財産評価通達第1章総則の6」で、個々の財産の態様に応じた適正時価評価が行えるように定めた。

同様の節税手法は、税理士業界ではすでにメジャーになっている。そのため、国税局がどのように判断・評価したのか税の専門家の間では注目の的だ。今回の否認事案では、ステージを裁判に移して評価の是非が争われる可能性もあるが、総則6項が乱用された場合の弊害を考えるなら、当局の判断根拠がより詳細に世間に伝わることを望みたい。

キーエンスは鍵(キー)と科学(サイエンス)を合成して作られた名称のようであるが、この営業利益率が50%のファブレス法人でかつ平成28年3月20日の有価証券報告書によれば、従業員平均年間給与1777万円の超優良会社の評判が落とされかねないのだ。

著者: 松本大路

税金ジャーナリスト/元税務調査官

税務調査官として約13年、都内の税務署などで法人税調査などを行う。その後、外資系生命保険会社の営業職員として約10年間、資産家及び法人、会計事務所向けに、役員退職プランや決算対策などをサポート。現在はフリーの税金ジャーナリストとして活動する。

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