移転価格課税等により国際的な二重課税が発生した場合の救済手段の一つが、外国税務当局との「相互協議」です。国税庁は、このほどが令和2事務年度の「相互協議の状況」についてとりまとめ公表しました。

移転価格課税を受けた場合の救済手段

税務当局から移転価格課税を受けた場合、企業グループ全体としては同一の所得に対して二重に課税されるという二重課税が発生します。この二重課税を解消するためには、

  1. 租税条約に基づく相互協議を申し立てる方法
  2. 国内法上の救済手段(再調査の請求、審査請求、訴訟)により課税処分の取り消しを求める方法

とがあり、いずれを選択するかは納税者の判断となります。実務上は、相互協議を優先するケースが多いようです。

相互協議

相互協議とは、移転価格課税等により生じた国際的な二重課税を排除するため、納税者が租税条約に基づく相互協議を申立てた場合に、我が国の税務当局が相手国の税務当局と行う協議をいいます。

我が国で移転価格課税が行われた場合、日本親会社と海外子会社は、二重課税の排除を求めて、それぞれ日本の国税庁、外国税務当局に相互協議の申立てを行います。これを受けて日本の国税庁と外国税務当局は独立企業間価格の算定方法等について協議を行います。

相互協議において合意に達した場合には、合意内容に従って、日本の国税庁は合意金額まで所得金額を減額し、外国税務当局も合意金額だけ海外子会社の所得金額を減額し税金を還付します。こうしたプロセスを「対応的調整」と呼んでおり、これにより二重課税が解消します。

なお、相互協議は、移転価格課税以外にも、移転価格の事前確認、恒久的施設(PE)に関する事案、源泉所得税に関する事案においても実施されています。

相互協議では、双方の当局が合意に達するよう努力することは求められていますが、合意に達する義務までは課されていないため、相互協議で必ず合意するという保証はありません。そのため、相互協議を行ったものの、合意に対しない(決裂)というケースもあり得ます。このような場合には、国内法に規定する救済手段により二重解消の解消を求めて争うこととなります。