売買契約書は、いわゆる処分証書に該当し、その成立の真正に争いはないことから、作成者である契約当事者が通謀して租税回避の意思や脱税目的等の下に故意に実体と異なる内容を当該契約書に記載したなどの仮装行為が認められない限り、作成者である契約当事者双方によって、売買契約書に記載されたとおりの法律行為がなされたものと認めるべきであり、請求人及び売主は、建物について、売買契約書建物価額で売買することに合意し、契約の締結に至ったものであるから、建物について授受することとした対価の額は、売買契約書の建物価額とするのが相当という判断が示されました。

国税不服審判所令和2年2月17日裁決(裁決事例集未掲載 TAINS:F0-5-286)

1.事実関係

本件は、消費税等の課税事業者である審査請求人(請求人)が、土地とともに一括取得した建物について、土地及び建物の各固定資産税評価額の価額比を基に売買総額をあん分し当該建物価額を課税仕入れに係る支払対価の額として消費税等の申告をしたところ、原処分庁が、当該建物の課税仕入れに係る支払対価の額は、契約書に記載された建物価額によるべきであるなどとして消費税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、その一部の取消しを求めた事案である。

請求人は飲食店業を営む法人であり、平成29年7月10日付で、土地(本件土地)及び建物(本件建物)を買受ける旨の契約を締結したが、契約書(本件売買契約書)には、売買総額が5500万円、本件土地が5068万円、本件建物が432万円(本件建物価額)、売買総額中の消費税等の額が32万円と記載されていた。また、本件に係る平成29年度固定資産税・都市計画税課税明細書には、本件土地の評価額が3653万3145円、本件建物の評価額が4237万6611円と記載されていた。

請求人は、平成30年4月30日までの課税期間において、上記売買総額を、固定資産税等明細書に記載された各固定資産税評価額の比を基にあん分することにより、本件建物の取得価額を算出し、本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額を2952万5220円とし、法定申告期限までに確定申告した。

2.争点

本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額は、本件建物価額によるべきか否か。

3.請求人の主張

以下の理由から、本件建物の課税仕入れに係る支払対価の額は、固定資産税評価額の価額比を基にあん分して算出した建物価額によるべきである。

(1)本件建物価額はあまりにも低額であり、同契約書には相対的で公正な土地及び建物のあん分額の記載がないというべきである。

(2)本件売買契約書における本件土地の価額と本件建物価額は、以下のとおり、合理的に区分されているとは認められない。

  • ①本件土地について、一般的に土地取引における実勢価格は更地の状態で算出されるものであり、本件売買契約書に記載された本件土地の価額から本件建物の解体費用を差し引くと、本件土地の実勢価格は本件売買契約書に記載された本件土地の価額を下回る。
  • ②本件建物について、本件建物の基礎及び躯体部分の価値を試算すると、本件建物価額以上の金額となり、各固定資産税評価額の価額比を基にあん分して算出した建物価額に近い金額となる。