経済活動のグローバル化を背景に、国際的な租税回避行為や海外への資産隠しに対して国税当局は目を光らせています。国税当局にとって海外取引や国外財産に関する情報を収集するための重要なツールの一つが、外国税務当局との情報交換です。

「情報交換」とは、外国の税務当局との間で、調査に必要な税に関する情報をお互いに提供し合う仕組みをいいます。税務当局は近年、この情報交換を積極的に活用し、外国の税務当局から調査に有効な情報の入手に努めています。
この情報交換を大きく分けると、①要請に基づく情報交換、②自発的情報交換、③自動的情報交換の3つに区分できます。下の図は、それぞれのイメージを示しています。
《情報交換の3類型のイメージ》

要請に基づく情報交換
「要請に基づく情報交換」は、国内の調査で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、必要な情報の収集・提供を外国税務当局に要請するものです。
具体的には、海外法人の決算書等、契約書、インボイス、銀行預金口座取引明細書などの他、外国税務当局の調査担当者が取引担当者に直接ヒアリングして得た情報など、幅広い情報が入手可能となっています。
令和2事務年度に国税庁から外国税務当局に行った「要請に基づく情報交換」の件数は638件であり、地域別にみると、我が国と経済的関係が強いアジア・大洋州の国・地域向けの要請が510件となり、約8割を占めています。
「要請に基づく情報交換」は、以前は外国当局に情報提供要請をしてから回答を受け取るまで数年かかるということもありました。そのため、回答を受け取った頃には調査担当者も既に転勤してしまっていて、情報をうまく活用できないことがあるなど、使い勝手の悪い面も多く見られました。
しかし現在では、OECDの国際基準において、相手国等から情報提供要請を受けてから90日以内に、相手国等に対し要請を受けていた情報を提供するか、又は進捗状況等の通知をしなければならないこととされています。さらに、その実施状況について各国相互のピアレビュー(相互監査)が定期的に行われることとなっており、従来よりも回答を受領するまでの期間は格段に短くなっています。
【要請に基づく情報交換の活用事例】
内国法人D社の法人税調査において、D社がX国の複数の法人に対して、多額の不動産開発に関するコンサルタント料を計上している事実を把握した。当該コンサルタントに関する契約書に記載されている相手先と、請求書の発行元や支払先が異なっていたほか、コンサルタント料総額の約半分が長期間未払いとなっているなど不審点が見られたことから、X 国税務当局に対して、当該コンサルタント取引に関する資料の提供を要請した。その結果、架空の契約書を用いて、役務提供の事実がないコンサルタント料を計上していた事実が判明した。