今回は、電子帳簿保存法の全体像についてご説明します。令和3年度税制改正では、電子帳簿保存法について抜本的な見直しが行われました。そのコンセプトとしては、昨今のデジタル化の大きな流れの中で税についてもこの流れに対応できるように、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するような電子による帳簿書類の保存制度とすることです。そのためには、まず多くの納税者が利用し易いような制度に変革しなければなりません。導入のハードルを下げるため、保存要件の大幅な緩和等が行われました。
【令和3年度改正の全体像】
令和3年度の抜本的見直しでは、制度の前提であった事前承認制が廃止されました。
各税法で保存義務が課されている帳簿や書類は、申告納税制度の基礎となる重要なものであり、保存している帳簿や書類に真実性や可視性が確保されていなければ、適正公平な課税が確保できないことから、保存要件が適正に履行されるように事前に確認する事前承認制が採用されていました。この事前承認制により、保存要件に従って保存等が行われることを事前に確認し、保存義務者に要件違反がある場合には、電子データによる保存を行うことができなくなることにより、適正な履行を確保していました。
しかしながら、事前承認制という入口のハードルがとても高いことから、なかなか制度の利用に結び付かなかったことがいえます。このため、これまで制度の前提であった事前承認制が廃止されました。廃止により制度の利用開始が容易になることから、保存要件が順守されているかを当初の保存段階からしっかりと自己責任で管理する必要性が増したと言えます。税務調査の際に、保存要件に従った保存でないと認定された場合には、税法上の保存書類とはみなされなくなります。今後は、日頃から保存要件に従った保存がなされているかをチェックができる適正な事務処理体制の確保やその運用体制、内部統制をしっかり行っていく必要があります。
このほか、従来、帳簿や書類の種類に応じた主要な記録項目を検索の条件として設定しなければならなかったことから、高度の検索機能の確保が必要だったものを取引年月日、取引金額及び取引先の3項目に限定することにより、簡易な検索機能でよいことにするなどの検索機能の緩和、タイムスタンプ要件の緩和、バックオフィスに人員を割けない中小企業にとってハードルが高いと言われていた『適正事務処理要件』の廃止など、多岐にわたる制度の抜本的な見直しにより、保存要件の大幅な緩和が行われました。これにより、これまで電子帳簿等保存制度の導入が人員等の都合で実質的に困難であった中小企業等においても制度の採用が可能となり、今後、制度の導入を検討することが予想されます。
また、緩和された一方で、適正な保存を担保するための措置も設けられました。保存要件を緩くして利用しやすくしつつ、適正な保存を促すための担保措置として、電子データに基づいて不正行為を行った場合のペナルティを重くする重加算税の加重措置が設けられ、制度全体として適正公平な課税を確保できる仕組みに改組されました。