従業員の給与を引き上げると税額控除が受けられる「所得拡大促進税制」。令和3年度税制改正でも要件が緩和されましたが、令和4年度税制改正でさらに拡充されました。どこがどう変わったのでしょうか。注意点も含めて解説します。

■所得拡大促進税制とは?対象となる中小企業や条件を確認

所得拡大促進税制とは、従業員の給与や賞与を引き上げたときの税制優遇です。給与等の増加額の一部を法人税額や所得税額から差し引けます。通常要件と上乗せ要件とあり、通常要件の内容と税額控除は次のようになります。

【引用元】中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック -令和4年4月1日以降開始の事業年度用- (個人事業主は令和5年分以降用)令和4年5月6日公表版(中小企業庁)から加工して作成

なお、上乗せ要件は令和4年度税制改正で変わりました。こちらは後述します。

●対象となる中小企業

この制度の対象となる中小企業は、次の要件を満たした法人と個人です。

●対象となる給与等の範囲

給与等の範囲は、所得税法第28条第1項に定める給与等を言います。

【引用元】所得税法(e-gov)

定期的に支給する通勤交通費は、含めても含めなくても差し支えありません。ただし、退職金は含めません。

●給与等や教育訓練費は「国内の雇用者」のみ

所得拡大促進税制が使えるのは「国内の雇用者への給与や賞与などを前年よりも1.5%以上増やしたとき」です。これに加え、給与等の増加割合が2.5%以上だったり、雇用者への教育訓練費を10%以上増加させたりすると、税額控除の割合が引き上げられます。

この雇用者とは、賃金台帳に記載された人が対象です。正社員だけでなく、パート・バイト・日雇い労働者も含みます。役員や使用人兼務役員は含めません。また、正社員やバイト、パートなどであっても、役員や個人事業主の家族などといった特殊関係者は計算基準から外します。

●令和4年度税制改正で延長に

元々この制度は、令和3年度税制改正で「法人については令和5年3月31日まで、個人は令和5年分まで」とされていました。しかし、令和4年度税制改正で適用期限が1年延長されました。現在、旧制度と新制度の適用期間は次のようになっています。

■令和4年度税制改正で変わった3つのポイント

所得拡大促進税制は、適用期限が延長されただけではありません。令和3年度税制改正で緩和された要件が、令和4年度税制改正でさらにシンプルになりました。税額控除の上限も引き上げられました。

●変更1:税額控除割合の上限が引き上げに

令和3年度税制改正分までの税額控除の割合は、通常要件を満たしたときで15%、上乗せ要件を満たしたときでプラス10%でした。

【引用元】中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック -令和3年4月1日から令和4年3月3日までの期間に開始した事業年度用- (個人事業主は令和4年分用)令和4年2月10日公表版(中小企業庁)から加工して作成

令和4年度税制改正では、この税額控除割合の上限が引き上げられました。通常要件での控除割合は15%で変わらないのですが、上乗せの控除割合が最大でプラス25%となりました。

【引用元】中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック -令和4年4月1日以降開始の事業年度用- (個人事業主は令和5年分以降用)令和4年5月6日公表版(中小企業庁)から加工して作成

【引用元】中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック -令和4年4月1日以降開始の事業年度用- (個人事業主は令和5年分以降用)令和4年5月6日公表版(中小企業庁)から加工して作成

【引用元】中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック -令和4年4月1日以降開始の事業年度用- (個人事業主は令和5年分以降用)令和4年5月6日公表版(中小企業庁)から加工して作成

●変更2:要件から「経営力強化」が削除される

令和3年度税制改正では、継続雇用者要件が撤廃されました。つまり、新規雇用者の賃金引き上げも税額控除の対象となったのです。令和4年税制改正では、さらに要件が1つなくなりました。中小企業等経営強化法の経営強化計画の認定を受けたり、経営力向上の証明を受けたりする必要がなくなったのです。

国内雇用者への支給額を前年度比2.5%以上増やすか、教育訓練費の額を前年度比10%以上増加させれば、控除割合がさらに上乗せされることとなりました。

【引用元】中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック -令和4年4月1日以降開始の事業年度用- (個人事業主は令和5年分以降用)令和4年5月6日公表版(中小企業庁)

●変更3:教育訓練費は「添付」ではなく「保存」へ

教育訓練費の要件を満たして上乗せの税額控除を受けるなら、「教育訓練等の実施時期、教育訓練等の実施内容及び実施期間、教育訓練等の受講者、教育訓練費の支払証明を記載した書類」の添付が必要でした。しかし、令和4年度税制改正により、教育訓練費要件については、添付ではなく手元で保存することとなりました。