◇最近の実例
最近の実例として、令和3年9月8日の東京地裁判決(令和元年 第14636号詐害行為取消請求事件)でご紹介します。
○事案の概要
消費税の不正還付申告を行った会社の不動産をめぐり、同社に融資をしていた金融機関が当該不動産に根抵当権設定契約をしたことで、徴収できる額が減少する見込みとなったとして、国税当局が原告となって、金融機関に対し根抵当権設定登記の抹消を求める詐害行為取消訴訟を提起した事例です。
上記「◇要件」では、②の「一部の債権者への担保の供与」に該当する事例となります。
○判決(原告(国税当局)勝訴)
判決では、課税処分(更正決定)により、多額の国税が発生したことで会社が無資力(債務超過)になるため、同社と金融機関が他の債権者に十分な弁済ができなくなることを認識しながら根抵当権を設定したと認め、金融機関に根抵当権設定契約を取り消し、抹消登記手続きをするよう命じました。
○争点は3つ
①被保全債権の存否(詐害行為の前にすでに滞納が生じていたこと)
②根抵当権設定契約の詐害行為該当性(詐害行為の結果、滞納者の財産が減少し、滞納税金を納税するのに足りなくなること)
③根抵当権設定契約の詐害行為該当性に関する被告らの認識の有無(滞納税金の返済が出来なくなることを知っていたこと)
①について、課税処分時(平成29年6月30日)に消費税の還付金を充当してもなお滞納残額があるとしました。
②について、会社は課税処分により無資力の状態に陥る可能性を具体的に認識しながら、自社不動産に対する金融機関との根抵当権設定契約を締結したことは、他の債権者に対して十分な弁済をすることができなくなると認めました。
③について、金融機関が課税処分の当日に設定した根抵当権設定契約は、租税債権に優先して債権回収を図ることを主たる目的として締結したものと認めました。
今回の実例では、国税当局が、平成29年9月に差し押さえた不動産について、課税処分当日(平成29年6月30日)に根抵当権登記が設定されました。
そうすると、仮に国税当局が差押不動産を公売したとして、その売却代金の配当を計算すると、差押えにかかる滞納国税よりも根抵当権を設定した金融機関へ優先して配当されることになり、結果として、国税当局が徴収できる額が少なくなることになります。
そのため、国税当局は、詐害行為取消訴訟を提起して、金融機関が設定した根抵当権設定登記を抹消(取り消し)させたうえで、公売による適正な配当が受けられるようにしたのです。