一昔前のメディアでは、よく「長者番付」などという表現が採用されていました。これは、旧所得税法233条を根拠になされていた高額納税者に関する公示制度のことを指す表現ですが、お金持ちたるいわゆる「長者」を番付けしたものでは決してありません。今回はこうした法律上の制度の表現振りについて考えてみたいと思います。

「長者番付」とは

この旧所得税法の公示制度は、本来、納税額が一定の者を公表し、高額所得者の所得金額等(当初は収入金額も公示対象とされていましたが、後には税額のみとなっています。)を公示することにより、第三者のチェックによる脱税牽制効果を狙った制度です。実際、初期の頃はこの制度目的の効果を高める為に、情報提供者に対して、脱税発見額に応じて報償金を支払う「第三者通報制度」も導入されていましたが、通報の動機が怨恨や報復によるものが多いなどの指摘があって昭和29年に廃止されています。

いずれにしても、本来は脱税の防止という趣旨から設けられた公示制度であるにも関わらず、「長者番付」という、どこか他人のプライバシーを覗き見るような、ある種の出歯ガメ的な意味を有してしまうネーミングは、本来の制度趣旨を必ずしも正解しているものとは言えず、問題があったというべきでしょう。

「住宅ローン控除」という言い方は適切か?

このように、マスコミなどで、法律用語とは異なる用語が独り歩きをすることが少なくありません。

「住宅借入金等特別控除」のことを一般的に「住宅ローン控除」などと呼ぶのもその一例でしょう。「住宅ローン」というと、住宅取得や住宅の改築のために、銀行などの金融機関からお金を借りる金銭消費貸借契約の商品名のイメージがあるかと思います。

この点、日本大百科全書によると、「一戸建てやマンションなどの住宅(宅地を含む)の購入資金や新築・増築・改築資金を調達するために金融機関から受ける融資のこと。」とされていますし、デジタル大辞典でも、「住宅の建設・購入・改良などのため、銀行・信用金庫・保険会社・住宅金融専門会社などが行う資金貸付。通常、民間金融機関の住宅金融をさすが、広義には、住宅金融支援機構などの公的なものを含める。」とされています。