「今の日本では事業承継が重要だ」という言葉をよく聞くようになりました。事業承継に関連するセミナーも頻繁に行われています。なぜそんなに事業承継が注目されるのでしょうか。事業承継の意義に触れつつ、その理由を解説します。

事業承継とは何か

事業承継とは、法人や個人が営む事業を現在の経営者から他の人に引き継ぐことを言います。

「社長やオーナーが交替するだけ」と思われがちですが、実際は「経営資源の引き継ぎ」です。

事業承継では、次のような経営資源を引き継ぎます。

  • 会社の株式(いわゆる自社株)
  • 他の役員、従業員
  • 会社の資産(本社や支社、工場や店舗といった建物、機械、工具など)及び負債(経営者保証を含む)
  • 取引先や金融機関との関係、社会からの信頼
  • 経営理念、経営ノウハウ

こういった経営資源の引き継ぎは、一朝一夕ではできません。

課題を洗い出して対策を考え、時間をかけて行う必要があります。

事業承継を先延ばしにできない3つの理由

以前から事業承継は、経営課題の1つでした。

しかし昨今、事業承継の対策の重要性がより高まっています。

次の3つがあるからです。

理由1:社長の高齢化

日本の企業の9割以上は中小企業です。そして、その中小企業の社長の最多年齢は60代、70代となっています。80代も含めると、60代以上の社長の割合は全体の約半分です。

【引用元】財務サポート 「事業承継」(中小企業庁)

帝国データバンクが行った「全国「社長年齢」分析調査(2021 年)」によれば、2021年は社長の最多年齢が少し若返り、50代となりました。

しかし、それでも相変わらず60代以上の社長の割合は50%超を占めています。

社長の高齢化は、事業経営のリスクの1つです。

病気や突然死で突然「社長不在」となるかもしれません。

認知症になれば、契約などの法律行為を行えなくなります。

「今は高齢でも元気だから大丈夫」では済まないのです。

理由2:後継者がいない

事業承継でもう1つ課題となるのが「後継者探し」です。

事業承継は次の担い手となってくれる人がいて初めて成立します。

しかし、その後継者になるべき人材が現在、なかなか見つかりません。

後継者の成り手がいないのです。

「社長の子どもが次期社長になるのでは」と思うかもしれません。

しかしそれは、昔の話です。

生き方を選びやすくなった今、次の社長となるのを拒む子どもが増えました。

また、適性の問題も前より考慮されています。

こういったことから、以前よりも後継者選びが難しくなったのです。

後継者がいなければ、事業を続けられません。

実際、廃業の理由の約3割は「後継者不在」です。

【引用元】財務サポート 「事業承継」(中小企業庁)

理由3:黒字廃業によるダメージ

企業の休廃業や解散がここ数年、少しずつ増加しています。

「赤字が理由でしょ?」と思われるかもしれません。

しかし実際は違います。

休廃業や解散に至る企業の6割は黒字で事業をたたむのです。

【引用元】財務サポート 「事業承継」(中小企業庁)

そして、黒字での廃業の理由の多くは「社長の高齢化」です。

廃業時の事業主の9割近くは60代以上となっています。

【引用元】第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来(中小企業庁)

また、廃業理由の上位には、先ほどお伝えした「社長の高齢化」「後継者がいない」も挙げられています。

【引用元】第2部 中小企業のライフサイクル(中小企業庁)

企業の休廃業や解散は、経営者だけの問題ではありません。周囲に影響が及びます。

会社が事業をたためば、従業員は職を失い、家族ともども生活に困ります。

取引先は売上が急減します。

顧客は、新たな仕入れ先を探さなくてはなりません。

最悪、連鎖倒産の可能性もあります。

国や自治体は、税収が落ち込むでしょう。

税収が減れば、いずれ公的なサービスにも影響します。

こういったことから、事業承継の問題は、一企業だけではなく、国全体の課題ともなっています。