適格インボイスも、その保存に関し、いわゆる電子帳簿保存法の適用を受け、厳格なルールが適用されます。
電子インボイスを印刷して保存はアリ?
本年1月1日から施行されている改正電子帳簿保存法[1]では、取引の相手先から電子データで提供された書類等を紙に印刷し、それを原本として保存することが認められなくなり、あくまで電子データによる保存が必要とされました[2]。
ただし、この取扱いは所得税法及び法人税法上のもので、消費税の世界では、電子インボイスに関し、紙に印刷して保存することが認められています[3](新消法57の4⑥、新消規26の8)。
そうはいっても、納税者として、所得税ないし法人税と、消費税を別々の処理とするのは煩雑この上ないため、消費税目的についてだけ紙に印刷して保存する取扱いはあり得ず、脚注2記載の宥恕(ゆうじょ)規定が適用される場合を除き、電子データで提供されたものはそれをそのまま保存する他ないと思われます。
[1] 正式名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」であり、一般に「電帳法」と略されることが多い。
[2] ただし、2023年12月31日までの間に、電子帳簿保存に対応できない事情があると税務署長が認め、かつ出力書面での提出に応じることができる場合には出力書面での保存も認められる(国税庁HP『電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】』問18及び問56-3)。
[3] この間の事情に付き、熊王征秀/渡辺章『逐条放談・消費税のインボイスQ&A』(2022年・中央経済社)117頁は、「この背景には影響度の違いがあるように思います。所得税、法人税の場合は結局、青色申告の承認がどうなるのかということです。ところが消費税は、青色申告者のみならず白色申告者にも影響が出ますし、小規模事業者から大規模事業者まですべての事業者に影響が出ます。ですから、その影響度合いからして少し緩くしているということじゃないかと思うのです。」と述べている。
ワードで作成した請求書をPDF化して電子メール添付で送信したら「電子インボイス」?
筆者は現在、請求書発行の際、ワードで作成して紙で印刷・押印した上で、スキャナーでPDF化したものを電子メール添付で顧客に転送していますが、同PDFファイルも、令和5年10月以降は、立派な電子インボイスとなります。
国税庁公表の「インボイス制度に関するQ&A」(以下「Q&A」)問28では、参考として、電子インボイス(Q&Aの表現では、「適格請求書に係る電磁的記録」)の類型として、光ディスク、磁気テープ等の記録用の媒体による提供のほか、次の方法があるとしています(インボイス通達3-2)。
- EDI取引における電子データの提供
- 電子メールによる電子データの提供
- インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じた電子データの提供
筆者が現在日常的に行っている方法は、上記2. に該当します。
1. は、異なる企業・組織間で商取引に関連するデータ(発注書や納品書、請求書などの証憑書類)を、通信回線を介してコンピュータ間で交換する取引等をいい、流通や建設等一部の大企業では、業界EDIの利用が一般的です。
3. は、例えば、クラウド上にサイトを設けてそこにデータを格納し、取引の相手先は、当該サイトにアクセスして当該データを入手するというイメージです。
電子インボイスの保存の要件
Q&Aでは、電子インボイスをそのまま保存する場合に、次に掲げる措置を講ずることとしております。
(1)売主(控の保存)の場合(Q&A問67、新消規26の8①)
① 次のイからニのいずれかの措置を行うこと
イ 適格請求書に係る電磁的記録を提供する前にタイムスタンプを付し、その電磁的記録を提供すること(電帳規4①一)
ロ 次に掲げる方法のいずれかにより、タイムスタンプを付すとともに、その電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと(電帳規4①二)
・ 適格請求書に係る電磁的記録の提供後、速やかにタイムスタンプを付すこと
・ 適格請求書に係る電磁的記録の提供からタイムスタンプを付すまでの各事務の処理に関する規程を定めている場合において、その業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかにタイムスタンプを付すこと
ハ 適格請求書に係る電磁的記録の記録事項について、次のいずれかの要件を満たす電子計算機処理システムを使用して適格請求書に係る電磁的記録の提供及びその電磁的記録を保存すること(電帳規4①三)
・ 訂正又は削除を行った場合には、その事実及び内容を確認することができること
・ 訂正又は削除することができないこと
ニ 適格請求書に係る電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと(電帳規4①四)
② 適格請求書に係る電磁的記録の保存等に併せて、システム概要書の備付けを行うこと(電帳規2②一、4①)
③ 適格請求書に係る電磁的記録の保存等をする場所に、その電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、その電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくこと(電帳規2②二、4①)
④ 適格請求書に係る電磁的記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくこと(電帳規2⑥六、4①)
※ 国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときはⅱ及びⅲの要件が不要となり、その判定期間に係る基準期間における売上高が 1,000 万円以下の事業者が国税に関する法律の規定による電磁的記録の提示又は提出の要求に応じることができるようにしているときは検索機能の全てが不要となります。
ⅰ 取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索条件として設定できること
ⅱ 日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
ⅲ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること
他方、適格請求書に係る電磁的記録を紙に印刷して保存しようとするときには、整然とした形式及び明瞭な状態で出力する必要があります(新消規26の8②)。
上記①イでいうタイムスタンプとは、時刻認証局(TSA:Time Stamping Authority)がユーザーの電子文書に付与するもので、電子的に作成された原本にタイムスタンプが付与された時点で、以後は改ざんされていないことを証明するものです。
同様にロの場合も、タイムスタンプを付してデータを確定させることを前提としていますが、一定の業務プロセスを行った後に、タイムスタンプを付す場合を前提としています。
他方、ハ及びニは、タイムスタンプによらないで、システム的に改ざんを防止する仕組みと解されます。ハはシステム的に訂正または削除が行われたときにその記録が残ること、あるいは、そもそもシステム的に訂正・削除ができないように設計されていることが要求されます。
すなわちハは、システム的に対処する方法で、二は、社内規定の運用によって、データの信頼性を確保するという方法ですが、実効性は乏しいと思われます。
上記②はシステム概要書等を備え付ける、③はプリンタやディスプレイを備え付けるということでQ&A問66にも同様の記載がありますが、次の④の検索機能と併せ、いずれも税務調査対応での要件であることが明らかです。
なお、④の検索機能要件については、※に記載のとおり、基準期間における(課税売上高ではなく)売上高が1,000万円以下の事業者がデータのダウンロードに応じることができる場合は、検索機能要件自体要求されないこととなります。
(2)買主(交付されたデータの保存)の場合(Q&A問81、新消規15の5)
買主の場合、売主側で処理されたものを受け取ることになるので、その保存の要件は上記(1)とほぼ同一の記載内容となっています。
ただし、既にタイムスタンプを付された適格請求書を受領した場合、二重にタイムスタンプを付す必要はないので、問81①イではそのことを確認しています。