今回は、インボイス制度導入の本当の意味を考えてみたいと思います。

事業者にとっては「革命」?

本連載第1回でも指摘したように、基準期間の売上高が1,000万円以下の免税事業者でありながら、得意先との関係維持のため、適格請求書等発行事業者として登録し、それ以降は納税義務者となる事業者にとって、インボイス制度はまさに革命であり、それゆえ何らかの激変緩和措置が求められておりましたが、先月16日の自民党税制改正大綱(案)で提案された2割特例[1]や少額特例[2]等により、適格請求書発行事業者の登録を検討している(あるいは既に登録した)事業者にとって一定の負担軽減が図られることとなりました。

その詳細は他稿に譲るとして、本稿ではインボイス制度導入の意味するものは何か、何が「革命」的なのかについて考察します。

その解は、一言でいえば、「課税事業者が行う仕入れについて、同仕入れが仕入税額控除の対象となるか否かについて、当該課税事業者が悩む必要はなくなった」という点に尽きます。

すなわち、(経過措置[3]は措くとして)本年10月以降課税事業者は、自身が受取る請求書等が適格請求書等に該当するか否かを判定すれば足り、適格請求書等に該当する[4]のであれば、取引内容を考慮することなく、そこに記載されている消費税額が、そのまま課税仕入れに係る消費税額となります。

平成元年に導入された消費税法は、事業者の事務負担を考慮し、インボイス方式の導入をあきらめ、世界的に類を見ない帳簿方式を導入した結果、資産の譲渡等を受けた事業者(買主)は、その相手側(売主)が、当該資産の譲渡等に係る消費税等を納付したかどうかについて確認する手段がない、という状態に置かれることとなりました。

すなわち、買主は、自らの仕入について、自ら取引内容を検討し、仕入税額控除の対象となるかどうかを自ら決定しなければならなかった訳です。

このような課税事業者による課税仕入れの判断を巡って、課税当局と見解が分かれることが多々あり、このことが、以下を始めとする多くの訴訟事件を生んだのも紛れもない事実であります。

我が国の消費税も、税の累積を排除する前段階税額控除を特徴とする付加価値税の系譜に属するにもかかわらず、取引の前段階における課税の有無が確認できないのが最大の欠陥[5]といわれており、これが今回の適格請求書等保存方式の導入に繋がったのは、本稿第1回で指摘したとおりです。

したがって、今回の適格請求書等保存方式の導入を境に、仕入税額控除の決定権が、買主側から売主側に転換した(逆にいえば、本来の形に回帰した)、ということがいえそうです。

このことが、インボイス制度導入が革命的であるということの所以です。

以上から、過去に仕入税額控除の是非について争われた多くの事件については、今後、類似の事件は発生しないことになると考えます。


[1] これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置をいう。

[2] 一定規模以下の事業者(課税売上高1億円以下)の行う少額の取引につき、帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の事務負担軽減措置、具体的には、1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも帳簿のみで仕入税額控除が可能な制度をいう。この他、前稿で指摘した振込手数料の問題に関し、1万円未満の返還インボイスの交付義務が免除される。

[3] 経過措置の詳細は本稿第2回を参照されたい。

[4] 課税事業者は、受領した請求書等に記載された売主の登録番号を基に、売主が適格請求書等発行事業者であるか否かを国税庁HPで特定することで、受領した請求書等が適格であり、記載された仕入税額が控除の対象となることを確認できる。

[5] 免税事業者からの仕入についても、仕入税額控除の対象となり得る点も、我が国消費税の欠陥の一つに数えられよう。