消費税法基本通達が大幅に書き換えられる?
現行制度下における消費税法基本通達は、仕入税額控除の決定権は、あくまで買主側にある、という前提を下に作成されているのは明らかです。
そうすると、適格請求書等保存方式導入後は、現行の基本通達に不具合が出てくることが予想されるので、早晩、同基本通達の改正が予想されます。
未だそのようなアナウンスメントは筆者の耳には届いていないものの、本稿では、以下、改正の対象となり得る基本通達を取り上げ、過去の訴訟事件との関連、あり得る改正の方向性等を論じてみたいと思います。
消費税法基本通達5-5-3(会費、組合費等)
同業者団体、組合等がその構成員から受ける会費、組合費等については、当該同業者団体、組合等がその構成員に対して行う役務の提供等との間に明白な対価関係があるかどうかによって資産の譲渡等の対価であるかどうかを判定するのであるが、その判定が困難なものについて、継続して、同業者団体、組合等が資産の譲渡等の対価に該当しないものとし、かつ、その会費等を支払う事業者側がその支払を課税仕入れに該当しないこととしている場合には、これを認める。
(注)
1 2 (略)
3 資産の譲渡等の対価に該当するかどうかの判定が困難な会費、組合費等について、この通達を適用して資産の譲渡等の対価に該当しないものとする場合には、同業者団体、組合等は、その旨をその構成員に通知するものとする。
本通達は、同業者団体、組合等が行う役務の提供とその構成員から受ける会費、組合費等の間に明白な対価関係があるかどうかによって消費税の課税の有無を判定するということを前提とし、対価関係の判定が困難なものについては、対価性がない(不課税)とするとともに、会費等の支払者側において、そのこととの見合いで課税仕入れとしない処理を認めるという趣旨[5]といわれています。
現行制度上は、会費等の支払者側で、課税仕入れ該当性を判断しなければならないため、上記(注)3のとおり、収受する側と支払う側の処理の整合性を担保するため、団体側に、不課税の場合の通知義務を課しています。
しかしながら、適格請求書等保存方式導入後は、当該団体等の構成員は、団体側が適格請求書等を交付した場合のみ仕入税額控除ができることになるので、(注)3の通知義務は必要なくなり、本文後段の「かつ」以後の文言も改訂又は削除されると思われます。
基本通達5-5-3の適用可能性等が問題となった京都弁護士会事件[6]
本件は、京都弁護士会(納税者・原告)が、会員の弁護士から支払いを受ける受任事件負担金等を消費税の課税取引ではないとして消費税の確定申告を行ったところ、課税庁から、これらは消費税の課税取引に該当するとして更正処分等を受けたため、これを不服として提訴した事件です。
本件の争点は、受任事件負担金等の対価性の有無でした。
原告は、対価性があるためには役務の提供に対し個別的、具体的な反対給付があることが重要であり、受任事件負担金等は弁護士会の活動を支えるために支払われる会費的なものであり、具体的な反対給付性を持たないため対価性はないと主張し、課税庁は、会費か否かと消費税の対価性の有無は関係がなく、対価性があると主張しました。
裁判所は、原告の事務処理という役務の提供によって受任の機会を得、反対給付として受任事務負担金等の支払いを受けており、これらは対価性があるとして、消費税の課税取引に該当すると判示しました。
納税者はこれを不服として控訴しましたが、棄却され、上告しましたが棄却不受理となり確定しました。
本判決については、成功報酬的な受任事件負担金等について、1.「受任して成功した場合の報酬を基準として支払う金銭がどうして対価なのだろう」[7]、2.「基本通達5-5-3の後半部分(団体の会員との間で継続して統一的な処理がなされている場合にはこれを認めるとした部分)について十分に検討することなく、たとえ会費として処理されていたとしても、本件各受任事件負担金は役務の対象となるとしている」[8]等の批判があります。
しかし、上記2.の批判は、現行基本通達5-5-3の文言に係る部分なので、適格請求書等保存方式導入後は、あまり意味をなさないものとなる可能性があります。
いずれにせよ、今後、課税・非課税・不課税を決定するイニシアティブは、完全に売主側が握るという構造になるので、我々もその辺の意識を変えていく必要があると考えます。
次回以降も今後改正が予想される消費税法基本通達について見ていきます。
[5] 平成26年版『消費税法基本通達逐条解説』(大蔵財務協会)235~236頁参照。
[6] 第一審は京都地判平成23年4月28日(平成19年(行ウ)第48号・平成21年(行ウ)第5号)、控訴審は大阪高判平成24年3月16日(平成23年(行コ)第86号)。
[7] 三木義一『ジュリスト』2012年12月(1448号)126頁
[8] 川田剛『月間税務事例』(Vol.43 No.9)2011年6頁
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