前回に続き、インボイス制度導入による通達改正を大胆予想します。

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課税仕入れか否かについて悩む必要はなくなる?

前回、納税者にとってのインボイス制度導入の真の意味は、「課税事業者が行う仕入れについて、同仕入れが仕入税額控除の対象となるか否かについて、当該課税事業者が悩む必要はなくなった」という点にあるという話をしました。

本年10月以降課税事業者は、自身が受取る請求書等が適格請求書等に該当するか否かを判定すれば足り、適格請求書等に該当するのであれば、取引内容を特段検討することなく、そこに記載されている消費税額が、そのまま課税仕入れに係る消費税額となるはずです。

そこで、改めて消費税法基本通達(以下「消基通」)を見ると、第11章が「仕入れに係る消費税額の控除」ということでこの章が最もインボイス制度度導入の影響を受けそうです。

第11章の中でも、特に第1節「総則」、第2節「課税仕入れの範囲」、第3節「課税仕入れ等の時期」及び第4節「課税仕入れに係る支払い対価の額」の辺りが改正の検討対象となる可能性があると思われます。

以下、その中でも主要なものにつき見ていきます(紙面の関係から、主なもののみ取り上げること、またインボイス制度導入に係る経過措置については取り上げない点にご留意下さい)。

消基通「第1節 通則」

(課税仕入れの相手方の範囲)
11-1-3 法第2条第1項第12号⦅課税仕入れの意義⦆に規定する「他の者」には、課税事業者及び免税事業者のほか消費者が含まれる(下線筆者)。(注)=省略=

法2条1項12号は、課税仕入れの意義について、「事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、もしくは借り受け、又は役務の提供(括弧内省略)を受けること」と規定していますので、免税事業者がここでいう「他の者」に含まれるかが問題となりますが、現行制度下では、本通達により、明確に含まれるとされております。

しかし、インボイス制度が導入されると、免税事業者は当然、適格請求書等を交付することができませんので、免税事業者からの仕入を課税仕入れとすることは不可能です[1]

この点が、革命といわれるインボイス制度の真髄といえます。

そうすると、早晩、本通達の文言が改正されるのは自明ということになりそうです。

ところで、同号の後段には、括弧書きで「当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので…」と規定しており、この「したとした場合」という微妙な日本語の表現が免税事業者からの仕入が課税仕入れとされることの根拠であるとする見解[2]もありますが、インボイス制度が導入され、その結果この条文の文言が改正されるのかどうか、興味の尽きないところです。

さて、同通達は、もう一つ、消費者からの仕入も課税仕入れに該当することを確認しています。

これは、既に本稿第4回[3]で検討した、「古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入」、すなわち、例えば、中古車ディーラーが個人から中古車を買入れるような場合でも、適格請求書等の保存なしに、帳簿への記載のみで仕入税額控除が認められるという取扱いとなりますので、インボイス制度導入後も、同通達の「消費者」の文言は、そのまま維持されることとなると思われます。


[1] 経過措置について、本稿第2回(https://kaikeizine.jp/article/31806/)を参照。

[2] 熊王征秀『消費税法講義録〔第2版〕』(中央経済社・2020年)390頁参照

[3] https://kaikeizine.jp/article/32990/

消基通「第2節 課税仕入れの範囲」

この節で問題となり得るものとして、同業者団体、組合等の会費・組合費等(消基通11-2-6)、ゴルフクラブ等の入会金(同11-2-7)、公共的施設の負担金等(消基通11-2-8)、共同行事等に係る負担金(消基通11-2-9)があります。

いずれもそれら団体等とその構成員との間の金銭の授受を消費税法上どう捉えるのかという問題です。

すなわち、団体等がその構成員に対して行う役務の提供との間に明白な対価関係[4]があるのか、あれば課税取引、なければ不課税取引として消費税が課税されないこととなります。

しかしながら、明白な対価関係の有無といっても、会費等を支払う構成員側では、その支出が実際のところどう使われるかは分からないのが実情ではないかと思われます。

そこで、現行の通達では、団体等が、会費等を課税資産の譲渡等に係る対価に該当しないとしているときは、構成員側も当該会費等を課税仕入れにしない、ということを確認し、団体側に、その旨の通知義務を負わせております[5](前回の記事参照[6])。

一方、インボイス制度が導入されれば、課税取引か否かは、相手先から交付される書類等を見れば一目瞭然なので、上記の通知を通達で義務付ける必要はなくなるというのは前回指摘したとおりです。

そうすると、上記通達は、今後その存在意義が問われるということになりそうですが、通達の逐条解説を見ると、「…となることを念のため明らかにしたものである」旨が記載されており、確認規定であるという位置付けなので、上記通達は、敢えて改正・削除等をせず、おそらく、そのまま維持されるのではないかと考えます。

なお、消費税における「対価」の問題は、解釈が容易ではなく、多くの裁判例もあるため、次回検討いたします。


[4] 浜端達也編『平成26年版消費税法基本通達逐条解説』(大蔵財務協会)597頁

[5] 通知義務を課しているのは、会費等を受領する側なので、消基通「第5章課税範囲」の5-5-3(会費、組合費等)及び同5-5-4(入会金)にその記載がある。

[6] https://kaikeizine.jp/article/34916/2/