消基通「第3節 課税仕入れの時期」
消基通11-3-1は、課税仕入れを行った日の意義について、課税仕入れに該当する資産の譲り受け若しくは借り受けをした日又は役務の提供を受けた日をいうと定めており、これらの日がいつであるかについては「第9章 資産の譲渡等の時期」の取扱いに準ずるとしています。
現行の第9章では、(将来適格請求書等を交付するであろう)売主側に判断のイニシアティブを持たせる規定振りとなっているため、インボイス制度導入を契機としたこの節及びその関連する通達の改正の可能性は乏しいと考えられます。
しかしながら、第9章には、棚卸資産について、9-1-2⦅棚卸資産の引渡しの判定⦆、また、固定資産については9-1-13⦅固定資産の譲渡の時期⦆が定められており、特に後者について、最近、その適用の是非について裁判所で争われるケースが増えている(下記参照)ので、それに対する何らかの手当てがされるかも知れません[7]。
後者は、固定資産が土地、建物等である場合、事業者が当該資産の譲渡の時期について、その契約の効力発生の日としているときはこれを認めると定めており、これは法人税法における収益計上時期の取扱い[8]と平仄を合わせたものというように理解されています。
以下では、所謂金地金スキームを利用し、居住用賃貸建物の課税仕入れの日を恣意的に操作し、課税仕入れに係る消費税の還付申告を行った事件について見ていきます。
[7] T&Amaster No.808(2019.10.21)41頁参照。
[8] 法人税法基本通達2-1-14は、「…契約の効力発生の日において収益計上を行っているときは、当該効力発生の日は、その引渡しの日に近接する日に該当する」としており、同逐条解説は、その趣旨に付き、「固定資産のうち、土地、建物、構築物等については、一般的にその引渡しの事実関係が外形上明らかでないことが多いからである」と述べている(高橋正朗編著『十訂版法人税法逐条解説』税務研究会120頁)。
金地金スキームと権利確定主義
東京高裁は令和元年9月26日、金地金を利用した消費税の還付スキームを巡る2つの同種事件(平成31年(行コ)第90号、平成31年(行コ)第96号、両判決とも高裁で確定)につき、納税者の控訴を棄却しました。
2つの事件の原告・控訴人は異なりますが、その概要などはほぼ同じで、消費税の課税仕入れの計上時期を巡るもの[9]となっております(紙面の都合で、以下では第90号事件のみ取り扱います)。
第90号事件でX(原告・控訴人)は、1カ月未満の設立初年度[10]に金地金の売買取引[11]を行い当該課税期間の課税売上割合を100%とした上、同課税期間の末日直前(6月28日)に居住用賃貸建物71,085千円(うち消費税等3,385千円)の売買契約を締結し、同消費税の還付申告[12]をしたところ、所轄税務署より、同建物の課税仕入れの日は7月31日(売買代金支払及び所有権移転登記の日)であるとして更正処分を受けたことから、この取り消しを求めて提訴しました。
なお、設立初年度の翌課税期間には、同建物の賃貸収入(非課税)が発生しており、翌課税期間の課税売上割合は相当小さくなるので、Xとしては、同建物の課税仕入れの日を設立初年度中にしたかったのだと推察されます。
本件について、第一審の東京地裁[13]は、「課税仕入れを行った日」とは、課税仕入れと表裏の関係にある課税資産の譲渡等が現実に行われたときであるとして、売買代金の支払と所有権移転登記が行われた引渡日が「課税仕入れを行った日」であると判示し、Xの主張を斥けました。
Xは、これを不服として控訴しましたが、上記のとおり、高裁は、「課税仕入れを行った日」とは、仕入の相手方において当該資産の譲渡等による対価を収受すべき権利が確定した日(権利確定主義)をいうものと解するのが相当であるとして、原審同様の結論としました。
ここでいう、「課税仕入れを行った日」について、権利確定主義が妥当する、あるいは整合的と判示する裁判例は多数[14]あり、最近の同種裁判における一つの考え方として定着している感があります。
[9] 週刊税務通信No.3525(令和元年10月7日)10頁参照
[10] 平成25年6月10日から同月30日までの課税期間
[11] 平成25年6月17日に金地金5gを23,475円で購入し、同月26日に当該金地金を20,915円で売却したというもの。
[12] Xは新設分割により設立された子法人であり、新設分割親法人の対応課税期間の課税売上高により設立初年度課税期間より課税事業者とされていた。
[13] 東京地判平成31年3月15日(平成29年(行ウ)第143号)
[14] 例えば、東京高裁第96号事件の原審である東京地判平成31年3月15日(平成29年(行ウ)第144号)、東京地判平成31年3月14日(平成29年(行ウ)第142号)及びその控訴審である東京高判令和元年12月4日(平成31年(行コ)第106号)(確定)、大阪地判令和2年6月11日(平成30年(行ウ)第149号)及びその控訴審である大阪高判令和2年11月27日(令和2年(行コ)第97号)(確定)等。
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