今回は、電気通信利用役務とインボイス制度について考えてみたいと思います。

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競争上の歪みをもたらすサービス提供者の所在地による内外判定

平成27年度の税制改正により、インターネットを介して提供される電子書籍、音楽、広告等の配信サービス(これらを総称して「電気通信利用役務」といいます。)についてのサービス提供地の判定基準が、それまでの「サービス提供者の事務所等の所在地」から、「サービスの提供を受ける者の住所」に変更されました。

この改正のきっかけは、2000年代中頃の欧州での議論に遡ります。

欧州で生まれた付加価値税制において、サービス提供は、一般に、その提供者の所在地にて行われたとする基準(原産地主義)が伝統的に採用されておりましたが、上記のような場所を選ばないサービスが出現すると、欧州域外の事業者から同サービスの提供を受けることで、欧州の付加価値税を免れているのではないかという問題が提起されました。

欧州では特に、税制は競争上中立的でなければならず、経済活動に歪みをもたらしてはならいという考え方が根強いので、欧州域内事業者が一方的に不利益を被る(すなわち、税込価格との差ゆえに域外事業者には太刀打ちできない)制度の改正が望まれたのです。

そこで、欧州では、いわゆるB2Bのサービス提供について、全面的に原産地主義を放棄し、サービスの適用を受ける顧客の所在地にてサービスが提供されたという基準(仕向地主義)に大転換したのです[1]

欧州におけるかかる議論の進展を踏まえ、我が国でも、平成27年(2015年)の改正で、電気通信利用役務について消費税に仕向地主義の考え方が導入されたのは冒頭に記したとおりです。


[1] もっとも、欧州では、B2Cのサービス提供については、その内容により原産地主義と仕向地主義を併用している。

外国法人から提供を受ける電気通信利用役務の消費税法上の取扱い

我が国では、欧州のようにB2Bのサービス提供全てを仕向地主義に転換するというような改正を行わず、電気通信利用役務に該当するものについて、仕向地主義を採用するという仕組みを導入しました。

その上で、次のとおり、サービス提供を受ける者側の属性が事業者であるかそうでないかによって取扱いを分けることとしました。

(1) 事業者向け電気通信利用役務の提供

これには、国外事業者が行う電気通信利用役務のうち、サービスの性質又はそのサービス提供に係る取引条件等から、その提供を受ける者が事業者に限られるものが該当します(法2①八の四、基通5-8-4)。

これに該当するサービスの提供を受けた国内事業者は、自らがそのサービスの提供に係る申告・納税を行う、いわゆる「リバース・チャージ方式」を採用することになります。

なお、リバース・チャージとは納税義務を買手に転換(リバース)して課す(チャージ)方法で、欧州では1993年のEUの発足以降、加盟国間の物品の売買(資産の譲渡)[2]について、買手側で一般的に行われている方法です。

(2) 消費者向け電気通信利用役務の提供

これには、広く消費者を対象に提供されている電子書籍、音楽、広告等の電気通信利用役務が該当するほか、事業者を対象に販売を予定するものであっても、消費者からの注文を事実上制限できない場合も含まれます。

そうすると、国外事業者から、消費者向け電気通信利用役務の提供を受けた事業者は、そのサービス提供に係る仕入税額控除が制限されることになりますが、これを回避するため、一定の要件を満たし、国税庁長官の登録を受けた登録国外事業者から交付された請求書等の保存を要件として仕入税額控除が認められています。

すなわちこれは、国外事業者に申告納税義務を課す方式で、EUでは、域外の事業者に採用された方法です。


[2] EU域内購入(Intra-Community Acquisition)と呼ばれる。