連載最終回:消費税の35年を振り返ります。

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今や、一般会計税収トップの消費税

下図は、財務省が公表する昭和62(1987)年以降の一般会計税収の推移です。

(注) 令和3年度以前は決算額、令和4年度は補正後予算額、令和5年度は予算額。

【出典】財務省HP[1]

平成元(1989)年4月に導入された消費税。時代はバブル絶頂期で、同年の一般会計税収は54.9兆円、主要税目である所得税の税収は21.4兆円で一般会計税収全体に占める割合は39.0%、同じく法人税の税収は19兆円で同割合は34.6%で、2つの税目を合わせると、一般会計税収の実に73.6%を賄っておりました[2]

その年に税率3%でスタートした消費税の税収は3.3兆円で、一般会計税収に占める割合は6.0%でしたが、その後の約30年の間に3度の税率の引き上げがあり、直近の令和5(2023)年度予算額では、税収は23.4兆円で、一般会計税収69.4兆円に占める割合は33.7%となり、令和2(2020)年度以降一般会計税収の中では税収トップの税目となっています。

3度の税率の引き上げの時期は、平成9(1997)年4月(3→5%)、平成26(2014)年10月(5→8%)及び令和元(2019)年10月(8→10%)でしたが、上図のとおり、消費税の税収増加の時期は税率引き上げと完全にリンクしていることが分かります。

過去3度の税率引き上げの間の期間を見ると、税率5%の時期が一番長かった(平成9年から平成25年までの17年間)訳ですが、この間の消費税の税収はほぼ横ばいであり、消費税が国家財政の面で極めて安定的な税目であったといえます。

しかし、この間の重大事件として平成20(2008)年に起きたリーマン・ショックがあり、我が国経済に大打撃を与えました[3]。このことは、法人税収の平成19(2007)年から平成21(2009)年の急激な落ち込み(税収が14.7兆円から2年間で6.4兆円と半分以下)に如実に現れています。

この間、所得税収も落ち込んでおります(16.1兆円から12.9兆円)が、消費税の税収には目立った下落は見られません。

すなわち、消費税は、景気の動向に左右されない、極めて安定的な財源を提供する税目であるということが、歴史的な事実として証明されたことになります。

消費税の導入時を振り替えると、その当時、わが国の税制には4つの基本的課題[4]があり、その2番目には、「制度・執行の両面にわたっていかにして税制を公平かつ中立的でゆがみやひずみの少ないものにするかという課題」が挙げられており、そのため「直接税については、特別措置の整理・合理化並びに九・六・四現象[5]の是正の問題であり、間接税については、個別消費税から一般消費税、特に附加価値税への制度の転換の問題である。」[6]といわれていました。

すなわち、直間比率を見直し、間接税中心の欧州型の税収構造とするため、消費税が導入された訳ですが、現在の税収構造を見る限り、政府・大蔵省(当時)の目論見は、見事達成されたといえます。

参考までに、最近の直間比率について、主要各国と比較します。

わが国は、かつては、直接税型の米国に近い比率を示していたので、欧州型の税収構造にかなり近づいたことが見て取れます。

(注)⽇本は令和2年度(2020年度)実績額。諸外国はOECD “Revenue Statistics 1965-2021″による2020年の計数(推計による暫定値)。OECD “Revenue Statistics”の分類に従って作成しており、所得課税、給与労働⼒課税及び資産課税のうち流通課税を除いたものを直接税、それ以外の消費課税等を間接税等とし、両者の⽐率を直間⽐率として計算している。

【出典】財務省HP[7]

ところで、「直間比率の是正」という政策目的は、増加する社会保障費の財源確保のため、とよく言われますし、消費税法1条2項にも「消費税の収入については、(中略)年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。」と規定されています。

しかしながら、消費税は「一般会計」に組み込まれた税目の一つであり、「お金に色はない」のですから、直間比率を見直さなければ、社会保障財源を確保できないという訳でもないので、必ずしも合理的な説明とはいえず、あくまで税の徴収側のご都合主義に過ぎません。


[1] https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a03.htm

[2] なお、法人税収19兆円はこの年(平成元年)がピークであり、その後現在まで、一度もこの税収を上回ったことはない。これは、国際的な法人税率の引き下げ競争に我が国も歩調を併せ、税率を引き下げてきたことが影響している。ちなみに、OECDの統計では2001年の日本の国税地方税を合わせた法定税率(Combined Corporate Income Tax Rate)は40.9%だったが、2022年には29.7%と低下している(https://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=CTS_CIT

[3] 内閣府の統計によれば、平成20(2008)年度の名目GDPが516兆円で前年度から約22兆円(△4.15%)の下落、平成21(2009)年度の名目GDPが497兆円で前年から約19兆円(△43.64%)の下落と2年連続の減少であった。

[4] 本文で挙げた2番目の課題のほか、1税制の簡素化と明確化、3安定財源の確保、4税制の国際的調和が指摘されていた。

[5] 所得の相違による把握較差の問題で、「トーゴーサンピン(10 :5 :3:1)」「クロヨン(9:6:4)」とも呼ばれる。

[6] 金子宏『租税法[第24版]』(弘文堂)65頁

[7] https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/itn_comparison/j01.htm