新型コロナウイルスによるパンデミックと消費税(付加価値税)

最近の重大事件には、「コロナ禍」といわれるパンデミックがあり、わが国のGDPも、リーマン・ショック時並みの下落となりました。

すなわち、令和2(2020)年の名目GDPは537兆円で、前年より約19兆円(△3.4%)のマイナスとなりました[8]が、この年度の税収を見ると、前年に税率の引き上げ(8→10%。及び軽減税率の導入)があった消費税は措くとしても、所得税の税収は前年から全くの横ばい(ともに9.2兆円)で、法人税の税収に至っては若干の増加(10.8兆円から11.2兆円)となっており、リーマン・ショック時とは全く異なる様相を示しています。

東京商工リサーチのデータによれば、パンデミックが始まった2020 年2月、3月及び4月の企業倒産件数が前年同月比で約10%増加していた[9]ということであり、そのような状況下で、所得税の税収及び法人税の税収が横ばいないし、若干伸びていたというのはどのように理解すればよいのでしょうか。

一つ考えられる[10]のが、当時中央政府及び地方政府が緊急経済対策として採用していた持続加給付金・雇用調整助成金などの各種給付金・助成金で、その中には返済義務はなく、所得税・法人税の課税対象とされていたものがあり、それらが税収にプラスに作用したという可能性です[11]

もしそうだとすれば、給付金等を支給してその一部を税金で取り戻すということになってしまい、経済対策として、マッチポンプ的なチグハグ感は否めません。

要するに、わが国のパンデミック対策として、「減税」は選択肢の俎上(そじょう)には全く上らなかった、ということであり、この点が諸外国と比較すると大きな特徴といえると思います。

特に消費税に類する付加価値税に関し諸外国に目を転じてみると、わが国と同様、コロナ禍において下記のような様々なパンデミック対策が講じられています[12]

(1)時限立法にて税率そのものを一律に引き下げた国:

- ドイツ:2020年7月1日から同年12月31日まで、標準税率を19%から16%に引き下げるとともに、軽減税率を7%から5%に引き下げ

- アイルランド:2020年9月1日から2021年2月28日まで、標準税率を23%から21%に引き下げるとともに、軽減税率を7%から5%に引き下げ

- ノルウェー:2021年4月1日から同年10月1日まで、標準税率を12%から6%に引き下げ

(2)医療品・医療サービス等に対するゼロ税率ないし軽減税率を適用した国[13]

オーストリア、ベルギー、カナダ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン及びイギリス

(3)特定業種の景気刺激策として期限付き軽減税率を適用した国:

- 飲食業:オーストリア、ベルギー、コロンビア、ドイツ及びリトアニア

- 観光業(宿泊業を含む):オーストリア、コロンビア、コスタリカ、チェコ及びイギリス

- 娯楽業(映画、文化及びスポーツ):オーストリア、ギリシャ、リトアニア、オランダ及びイギリス

- 旅客運送業:コロンビア、ギリシャ及びトルコ

上記のとおり、諸外国では、パンデミック対策として付加価値税の減税を試みましたが、わが国では、直前に税率の引き上げもあってか、政府・財務省は消費税だけでなく、あらゆる税目において減税を検討することすらありませんでした。


[8] もっとも、令和3(2021)年の名目GDPは551兆円、令和4年は562兆円と順調に回復しており、リーマン・ショック時のように2年連続して下落するようなことはなかった。

[9] https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1196482_1610.html

[10] 実証的な分析でなく、筆者独自の仮説であるため、正式な分析が望まれる。

[11] 一方で、東京商工リサーチの分析では、「新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急避難的な資金繰り支援策が奏功し、2020年7月以降、9カ月連続で倒産は大幅に抑制された状態が続いている。」(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1196548_1610.html)ということもあり、このような資金繰り支援策も税収増に寄与した可能性がある。なお、ここでの資金繰り支援策は、最近話題のゼロゼロ融資問題に直結しており、2023年8月時点では、倒産件数は、2022年4月から17カ月連続で前年同月を上回ったとのことである(https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1197971_1610.html)。

[12] OECD「Consumption Tax Trend 2022」 “2.2.3 Temporary VAT rate reductions have been used in response to the COVID-19 crisis and to rising energy costs”を参考とした。

[13] コロナ禍前は、付加価値税が免除ないし軽減税率が適用されていなかった品目である。

まとめ

過去15回にわたりインボイス制度導入について様々な角度から見てきました。

巷には、インボイス制度導入により「実質的増税だ」という声がありますが、既に税収トップに躍り出た消費税をこれ以上引き上げたところで国民の理解を得られないのは自明であり、導入時の「広く、薄く」[14]の精神に立ち返り、諸外国のような、有事における弾力的な運営が望まれるところです。


[14] 消費税導入の根拠とされた税制改革法10条・11条には、「消費に広く薄く負担を求める」との文言があり、確かに導入時は3%という低い税率であったが、3度の改正を経て既に税率は10%(軽減税率は8%)となり、もはや「消費に広く薄く負担を求める」との文言は有名無実となったといえよう。

【執筆者過去記事】

インボイスがやって来る(その13)

インボイスがやって来る(その14)

インボイスがやって来る(その15)

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