令和4年度税制改正により、適格請求書発行事業者の登録に係る経過措置の適用期間が延長されました。登録の是非を検討する免税事業者には、決断までの猶予が与えられます。

「インボイス」って請求書じゃないよね。

今から20年以上前、筆者がベルギーの会計事務所に勤務していた頃、ある日系顧客の方から、上記のようにいわれた記憶があります。

確かに、今、改めて研究社の新英和中辞典(第6版)を見ても、「〔商〕送り状[による送付]、インボイス」と、実にあっさりとした説明しかなく、そこには「請求書[1]」という文言は一切出てきません。上記の方はこのことを述べていたのだと思われます。

一方、現在では、ネット検索で、「invoice 語源」と入力すれば、「Invoiceの意味は『送り状』で、語源はin (接触)とvia (道)に由来します。原義は中期フランス語のenvois (送られたもの)です。」という説明を簡単に得ることができます。

要は、中世ヨーロッパで、商品発送の際、商品に添付した書類を嚆矢とし、その後、当該「送り状」には、商慣習上、実質的な請求書としての機能・性質が付与されていった、ということだろうと推察されます。

ちなみに、日本の消費税の原型となった欧州付加価値税発祥の地、フランスでは、インボイスのことをFactureと呼びます[2]が、Factureの字義について、三省堂クラウン仏和辞典(第4版)は、「請求書、計算書;送り状、インボイス」としており、そこには、はっきりと太字で「請求書」としています。

欧州付加価値税の計算において、売上税額とそこから控除される仕入税額は、それぞれの取引に係るインボイスに記載された税額を積み上げたもの(積上げ方式)となりますので、インボイスは極めて重要な役割を担っていることになります。

付加価値税の納税義務者は請求書を基に前段階仕入税額の控除の権利が確保され、税務当局は、インボイスを審査することにより、税額の正確性を検証することができます。


[1] 請求書の固有の英単語は“Bill”と解されるが、The Oxford Dictionary for the Business World(1993)では、Invoiceの項で“bill for usually itemized goods or service“ とあり、そこでは明確に「請求書(bill)」であることが示されている。

[2] 英国で、中期フランス語を語源とするinvoiceの用語が使われたのに対し、ご当地フランスでは、語源を同じにする用語は用いられず、別の用語としている点が興味深い。

免税事業者の登録手続きに関する経過措置の延長

(1)令和4年改正前

我が国でも平成28年の改正によりインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されることになり、令和5年10月1日から適格事業者として本制度の適用を受けようとする事業者は、令和5年3月31日まで[3]に納税地を所轄する税務署長に登録申請書を提出することとされていました(H28改正法付則44①)。

従前の課税事業者が適格事業者として登録するのは当然として、免税事業者が、敢えて、適格事業者として登録しようとする場合、この経過措置の最大のメリットは、申請期限までに登録申請書を提出すれば、「課税事業者選択届出書」を提出する必要がないという点にあります。

すなわち、「課税事業者選択届出書」は、原則その適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出しなければならないため、令和5年10月1日が課税期間の途中となる事業者が、その課税期間の前に「課税事業者選択届出書」を提出すると、その課税期間の初日から同日までの納税義務が免除されないという不都合が生じてしまいます。

そこで、経過措置では、登録申請書を提出する限り、免税事業者の「課税事業者選択届出書」を提出することなく、令和5年10月1日から課税事業者となるとされました。

また、免税事業者が適格請求書発行事業者として登録するわけですから、ほとんどのケースで簡易課税制度を選択するものと思われます。

「簡易課税制度選択届出書」についても、上記の「課税事業者選択届出書」と同様、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出しなければならないため、同様の問題が生じますが、経過措置では、令和5年10月1日以後の期間について簡易課税制度の適用を受けようとする場合、同日を含む課税期間中に「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、同届出書は、その課税期間の初日の前日までに提出されたものとみなされます(H30改正令附則18)。

(2)令和4年改正

令和4年の改正では、免税事業者が登録の必要性を見極めながら柔軟なタイミングで登録を受けられようとするため[4]、上記の令和5年10月1日という一時点だけではなく、同日から令和11年9月30日の属する課税期間において、「課税事業者選択届出書」を提出することなく、登録申請ができるようになりました。

ここでの登録申請は、年又は事業年度の途中からでも可能となります(新H28改正法附則44④)。

ここでいう令和11年9月30日の期限は、免税事業者から課税仕入れをした課税事業者に対し、仕入税額控除が一定期間認められる経過措置(H28改正法附則52・53)[5]の期限と平仄を合わせた規定振りとなっております。

簡易課税制度についても、同様に、令和5年10月1日から令和11年9月30日の属する課税期間において登録する免税事業者には、適用を受けようとする課税期間中に、「簡易課税制度選択届出書」を提出することにより、提出日の属する課税期間から簡易課税の適用を受けることができるようになりました。

なお、現行制度における「課税事業者選択届出書」提出事業者に対する2年縛り[6]とのバランスを考慮し、令和4年度改正では、登録日の属する課税期間が令和5年10月1日を含む課税期間である場合を除き、登録日の属する課税期間の翌課税期間までの各課税期間については、事業者免税点制度を適用しないこととされました(新H28改正法附則44⑤)。

以上のように、免税事業者に対し登録の是非についての意思決定の猶予期間が与えられたことは、1つの朗報といえます。


[3] H30改正令附則15は、令和5年3月31日までに登録申請書を提出できなかったことにつき困難な事情がある場合には、令和5年9月30日までの間に登録申請書にその困難な事情を記載して提出し、税務署長により適格請求書発行業者の登録を受けたときは、令和5年10月1日に登録を受けたこととみなすとしている。なお、ここでいう「困難な事情」については、その困難の度合いは問われないこととされている(インボイス通達5-2)。また、令和5年3月31日までという申請期限は、特定期間の課税売上高又は給与支払総額の合計額が1千万円を超えたことにより課税事業者となる場合(消法9の2①)は、令和5年6月30日までとなる。

[4] 財務省HP「消費税法等の改正」

[5] ただし、仕入税額控除のできる割合は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までが課税仕入れ等の税額の80%、令和8年10月1日から令和11年9月30日までが課税仕入れ等の税額の50%と段階的に削減される。

[6] 「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者となった場合、2年間は免税事業者に戻ることができないとされている(消法9⑥)。


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