社会環境の変化によってビジネスは様々な影響を受けます。その最たるものが収益のしくみ。旅行支援の導入によって息を吹き返しつつあるホテル業を例に見ていきましょう。
収益が厳しい。ならば、人件費を削減するか、取引先を見直すか。
会計本来の役割ですが、改めて見ると「ビジネス→会計」なる一方通行です。
会計を見据えながらビジネスを考えるという視点を加え、目線を2車線にする。
両者の横断を可能にすれば、間違いなくいずれの精度も向上します。
ビジネスから会計、会計からビジネス第2回は、「変わる収益構造」です。
出口が見え始めたホテルビジネス
2022年10月11日(東京都は20日)から始まった全国旅行支援。
最大8000円の旅行代金割引とクーポン3000円が付くという施策によって、観光業全体に明るい兆しが見え始めました。
観光庁が昨年12月26日に発表した宿泊旅行統計調査によると、11月の延べ宿泊者数は4570万人泊。
前年同月比は+23.7%となり、コロナ禍前の2019年同月比では▲8.0%と3カ月連続でマイナス幅が縮小するなど、大きな効果が出始めています。
2023年は賃上げ要請や2類から5類指定への変更などさらなる追加のプラス要素もあります。
しかしその一方、3年にも及ぶコロナ禍は、旧来通りのスタイルからの変容をホテルビジネスに求めて始めています。
ブライダルビジネスの陰り
ホテルビジネスは、そのカテゴリーによって棲み分けがなされています。
立地や業態、機能などで細分化されていますが、一般的な認知では、大きく
- シティホテル
- ビジネスホテル
- リゾートホテル
- 複合型ホテル
- エコノミーホテル
の5つです。
これらの違いを生み出す要素の1つが「ブライダル機能」。そして、それに紐づく「レストラン機能」です。
いわゆる高級ホテルにはこの両者が存在し、駅前などにあるビジネスホテルなどでは、最小限のレストラン機能があるといった具合に棲み分けがなされています。
ご存知のとおり、ホテルビジネスの収益はレストラン・宴会>宿泊の順です。
結婚式の単価は数百万円にも上り、1泊5万円の高級ホテルであってもその収益の差は歴然です。
ブライダルには時節性があり、ビジネス上のコントロールの難しさ、会計上での「売上の平準化」などの難しさはあるものの、事務・運営コストに占める人件費の効率性などプラス要素に溢れています。
しかし、3年間のコロナ禍は、このブライダルビジネスに大きな変化を及ぼしました。
例えば、
- ナシ婚
- フォトウェディング
です。
ナシ婚は文字通り、結婚式そのものをしないこと。つまり、結婚式そのものにかかる費用は0です。
フォトウェディングも同様に結婚式はせず、思い出となる写真だけを撮るというスタイルです。
平均的な費用は20万円ほど。結婚式の一般的な費用は292.3万円(「ゼクシィ 結婚トレンド調査2021調べ」)ですから、その規模は15分の1です。
規模自体の縮小(スモールウェディング)や、ホテルなどの専門施設ではない(レストランウェディングなど)形式ではなく、旧来からある結婚式そのものをしない流れが市民権を得つつあるのです。
こうした傾向は、特にブライダルを収益の柱としていた高級ホテルなどにとって少なくない影響を与えるとともに、カテゴリーの線引き自体の存在を希薄化させる要因になります。
つまり、もう1つの収益の柱である宿泊事業に集約されていく傾向が強まるとともに、複数の柱で形成されていたホテルビジネスの収益構造を変え、競争が激しくなることが見通されます。
こうした背景を見越したかのように、昨今、新たな収益構造を持ったホテルビジネスが登場しています。