コスト削減の最も知られた手法の1つがアウトソーシングですが、近年ある事象の広がりによって、その真逆である自社内で取り組む内製化が広がり始めています。

この記事の目次

営業利益を増やすべく、地代家賃を抑えたい。

会計本来の役割ですが、改めて見ると「ビジネス→会計」なる一方通行です。

会計を見据えながらビジネスを考えるという視点を加え、目線を2車線にする。

両者の横断を可能にすれば、間違いなくいずれの精度も向上します。

ビジネスから会計、会計からビジネス第8回は、「内製化」です。

内製化に踏み切る隠れた背景

これまで外部に発注していたものを社内で行う。

この内製化は、近年特にシステム開発の世界でその存在感を増しています。

システム開発にかかるコストを抑制したい。

内製化に踏み切る最大の理由ですが、これとは別に隠れた背景が存在しています。

それは、エンジニア不足です。

一見すると、委託先である開発会社にのみ影響する事象と思われそうですが、エンジニアが足りないことによって、プロジェクトそのものが遅延したり、開発するシステムの品質が低下したりするなど、実はクライアント側にとって小さくない影響を及ぼし、業務全体、ひいては事業の損益にまで影を落としかねない側面があるのです。

こうした点を踏まえると、内製化に踏み切る企業が増え始めた理由が、コスト削減だけでなく、エンジニア不足によってこれまで以上に不利益を被りかねないと考え、自社内で取り組むという判断もあるのであれば、それは自然な流れと言えそうです。

件のエンジニア不足は想像以上に深刻です。

2030年には少なくとも45万人、最悪の場合80万人近くエンジニアが不足するとの統計も出ています。

この事象を引き起こす主な原因としては、もっぱら「人口減少」や「少子高齢化」などが挙げられることが多いですが、実は理由はそれだけではありません。

例えば、エンジニアの労働環境があります。

近年の働き方改革により、少なからず改善はされていると思われますが、その業務内容の特性上(クライアントのビジネスを左右する)、時間外や休日であっても対応しなければならない場面が多々あり、結果厳しい労働環境となりやすい現実が、変わらずあるようです。

今後、AIの発達・拡大によってより省力化が進むことも期待されてはいますが、現時点ではまだ労働集約型であるため、当面の間は抜本的な改善は望めそうにありません。

またSNSが市民権を得たことで、このようなエンジニアの仕事の過酷さが表出し、大学生を中心に就職先として忌避されるようになったことも、理由の1つでしょう。

ビジネスと会計の視点

内製化が進む背景に続いては、ビジネスと会計両面の視点から内製化を確認してみましょう。

ビジネスの視点

まず、ビジネス面です。

システム開発に限定した前提になりますが、システムインテグレータなどに外部委託している場合、総じて開発全体のハンドリングはインテグレータ側が握ることになります。

それは例えば、開発スケジュールやそれにかかる費用、投入する人的リソースなどです。

このアンバランスさにより、開発会社のリソース状況がプロジェクト全体に影響を及ぼすことをしばしば引き起こされます(開発会社の業界・業態ごとの得意・不得意、開発現場に投入されるエンジニア自身の経歴や経験値などによって、開発全体の品質が左右されるなど)。

内製化により、こうした開発会社サイドの都合への依存から開放され、自社内の状況に応じたプロジェクトを進めることが可能になる上、さらに開発ノウハウの蓄積といったメリットも得ることができます。

ただし、無論デメリットも存在します。

開発会社にも共通する課題ですが、それは「エンジニア」の確保とそのレベルです。

実は慢性的なエンジニア不足は、単なる数の問題ではなく、「一定レベル以上のエンジニア」が不足していることも意味しています。

言い換えれば、一定レベルエンジニアの確保を巡り、開発会社と競争することになるため、少なくない採用コストや育成コストが発生することは避けられません。

会計の視点

続いて、会計面の視点です。

会計面で確認しておきたいことは、2点あります。

1つ目は、先ほども書いた「コストの削減」です。

一般的なシステム会社の場合、プロジェクトの見積に占める比率は、人件費+粗利が約6割(直接費)、サーバー代やエンジニアの交通費などの費用が約4割程度で構成されています。

しかし内製化をすれば、結果として人件費に内包されている粗利部分(15%~20%)程度を圧縮することが可能です。

また、相対的に高いエンジニアの人件費を自社レベルに置き換えることができる点でも、コスト削減につながる可能性があります。

もう1つは、勘定科目です。

外部委託から内製化に切り替えた結果、該当する費用はその計上先が変わります。

開発会社へアウトソースしている場合、つまり業務委託の場合は、シンプルに「外注費」でした。

それを内製化に切り替えた結果、「ソフトウェア仮勘定(人件費)→ソフトウェア(完成後、資産計上)」と、損益から貸借へと計上が変わります。

一見すると、費用勘定だったものが資産勘定に変わる点で会計的に良好にも見えますが、システムの完成後は最終的に資産計上されるため、途中経過の違いこそあれ、結果的には大きな違いがあるとは言えません。

その点は理解しておく必要があります。

まとめ

内製化について、システム開発をテーマに解説しました。

一般的なイメージである「コスト削減」だけではなく、全ての業界の課題でもある「人手不足」も原因になっていることを説明しました。

またビジネス・会計の両面を掘り下げていくと、一般的な人手不足の解決策(自動化や省力化など)と同様に、ストレートにメリットだけを享受できるわけではないことも、お分かりいただけたと思います。

残念ながら、人手不足そのものが良い方向へと変わる可能性は低いでしょう。

一方で、そのような一見マイナスに見える事象が、その先に新たなビジネスチャンスを内包している一面があるのも、また事実です。

【執筆者過去記事】

ビジネスから見た会計、会計から見たビジネス:「売上の分散」

ビジネスから見た会計、会計から見たビジネス:「コンテンツ」

ビジネスから見た会計、会計から見たビジネス:「費用分割」

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