私たちが生きて生活していく上で決して欠かすことができない「住宅」。鉄板とも言えそうな需要に支えられていますが、その内側では様々な問題を抱えています。

この記事の目次

営業利益を増やすべく、地代家賃を抑えたい。

会計本来の役割ですが、改めて見ると「ビジネス→会計」なる一方通行です。

会計を見据えながらビジネスを考えるという視点を加え、目線を2車線にする。

両者の横断を可能にすれば、間違いなくいずれの精度も向上します。

ビジネスから会計、会計からビジネス第10回は「住宅市場」です。

住宅にまつわるビジネス環境

住宅市場は、14.8兆円もの規模を誇る一大ビジネスカテゴリーです。

その規模は、医薬品(14.21兆円)に匹敵することからもよくわかります。

とはいえ、前回ご紹介した人手不足などあらゆる業界で引き起こる問題は、住宅業界も例外ではありません(物流業界と同じ時間外労働への罰則付き規制など)。

それと同時に、業界特有の課題も存在しています。

多様なものがありますが、中でも特に目立つ2つをご紹介しましょう。

空き家問題

まず、よくニュースなどで話題にのぼる「空き家問題」です。

5年ごとに調査される総務省の住宅・土地統計調査によると、直近の2018年時点で、空き家数は846万戸。

住宅全体に占める割合である空き家率は、13.6%。

単純に7軒に1軒が空き家になっているという深刻な状態で、今後も増え続けていくことが予想されています。

出典:平成 30 年住宅・土地統計調査(総務省統計局)

価格の高騰

2つめが「価格の高騰」です。

空き家が増え続けている一方で、それとさながら比例するように、首都圏のマンションを中心に価格上昇が続いています。

出典:建設産業・不動産業:不動産価格指数 – 国土交通省

都心部、中でも特に港区や千代田区などのいわゆる都心3区と呼ばれるエリアでは、新築マンションが億を超えることもしばしばです。

空き家が増え続けているにもかかわらず、住宅の価格が上昇していることに、違和感を覚えるかもしれません。

しかし、円安を背景にした外国人投資家による投資目的の買い占めなど、一般的な住宅取引の需給関係とは別の要素により高騰している部分があり、一筋縄ではいかない事情を含んでいます。

ビジネスと会計の視点

住宅市場にまつわる2つの問題について述べましたが、続けてビジネスと会計の視点からさらに掘り下げて確認してみましょう。

ビジネスの視点

まず、ビジネスの視点です。

筆者は数年間、個人向けの注文住宅メーカーに財務担当として席をおいていたことがあります。

これまで経験した様々な業界と比較した際、最大の違いであり、とても悩ましい問題だったのが「売上の非平準性」です。

住宅は売上が安定しにくく、事業の見通しが立てにくい特性があります。

これは住宅にとどまらず、ITや建設など比較的金額が大きくなるビジネスで起こりやすい傾向の1つですが、その発生には住宅市場特有の原因があります。

個人向けの住宅の場合、ほとんどの場合は金融機関経由で住宅ローンを組むことになるのですが、設計がある程度まで進んだ段階にも関わらず、肝心の審査が通らず失注といったことがよくありました。

こうした個別の案件ではなく、他にも売上全体を阻む原因もあります。

それは、建築基準法の改定です。

東日本大震災のような大規模地震が起きたあとは、必ず住宅に求められる耐震基準が上がるため、直前に設計したものはすべてやり直しとなるケースが発生するのです。

会計の視点

続けて、会計の視点です。

会計面で表出する最大の問題は、資産勘定に連動する「資金繰りの不安定さ」です。

住宅ビジネスにおける会計の特性と言えば、棚卸資産が膨張しやすいことがすぐイメージできるでしょう。

この特性と上述の売上の不安定さが相まって、キャッシュ・フローが落ち着かなくなってしまうのです。

それは、取り扱い金額の大きいビジネスの宿命とも言えるかもしれませんが、工程前半にキャッシュ・アウトが集中し、後半にキャッシュ・インが集中する結果、資産勘定が積み上がるため、この間の運転資金のカバーにかなりの労力を奪われることになるのです。

無論、中間金による回収の分散化や工期の圧縮によって、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮を図ることなども可能ですが、それでも固定費全体を補完できるまでには至らないため、住宅業界とは別の損益構造(例えば小売業など売上発生間隔の短いもの)を持つ事業の併走が、不可欠でした。